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不器用な夫
第30章 おかえり



教師が生徒を手篭めにしただの国松の家は危ない家系であるだのと好き勝手な噂は飛び交い、この場にハコが居ない事だけが救いだと思う。

学校へは父兄からの


「国松という教師は本当に大丈夫なのか?」


という問い合わせまでが来てる。

その対応を経験させられた留学帰りの森下先生は僕を痴漢を見るような顔で見るようになった。


「ご自分で職員室に残って、父兄の対応をすればいいのよ。」


自分の教員室に毎日のように逃げる僕の背中に森下先生から不満を浴びせられる。

変わらないのは理事長と新巻先生だけだ。


「茅野さんは元気?」


新巻先生に聞かれても僕は苦笑いをするだけだ。


「連絡をしてないの?」

「忙しいみたいですから…。」

「それでも、連絡くらいはしてあげなさい。奥さんなんだからね。」


わかってるけど、それが出来ない不器用な男です。

一度でも、僅か一言でもハコと話せば僕は帰って来いと口走るに決まってる。


「そのうちに…。」


もごもごと新巻先生に言い訳をして僕はのらりくらりと生活する。

秋の野外授業の準備に追われたりと僕自身も忙しいという事実。

感覚が桁外れなお嬢様達…。

船室に設置されるベッドや枕のメーカーについてまで問い合わせが来る。


「メーカーは船会社に問い合わせて下さい。」


枕が変わると眠れないレベルを通り越して野外授業である客船に自分のベッドを持ち込もうとするお嬢様達は毎年必ず現れる。

レストランは24時間体制だが、そのシェフについての問い合わせも多い。

野外授業はあくまでも授業です。

お嬢様達のバカンスではありません。

そういう対応を何度も繰り返す。


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