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不器用な夫
第30章 おかえり



今は何をしてる?

届くはずのない言葉を海の向こうに投げかける。

僕はこうやって君が居ない生活に慣れていく。

寂しいよ…。

待つと決めた心が揺らぎ今すぐにでも海を越えたいと思う。

自家用ジェットでも買いますか?

茅野家にはあるとハコが言ってた事を思い出す。

海を見るたびに、飛行機を見上げるたびに僕は君を思い出す。


「要…。」


デッキの上で海を眺める僕の隣に絵里美が来る。


「今夜のパートナーは居るの?」


絵里美の質問をぼんやりと聞く。

最終日…。

朝まで踊り明かすダンスパーティー。

ご令嬢達は踊れて当たり前の社交ダンス。

西洋の礼儀に従いパートナーを連れて参加する。


「僕のパートナーは1人だけだ。」


絵里美を見ずに答える。


「そのパートナーは海の向こうよ。」

「そう…、だから僕はここに居る。その邪魔をしないでくれるか?」

「要っ!」

「1人にしてくれと言ったんだ。」


国松の男は孤独が当たり前。

僕は1人でも平気だ。


「そんな要を見てられない。」


絵里美の声が震えてる。


「なら、見なくていい。」


ただ僕は絵里美を突き放す。

絵里美は友人として同僚として僕を心配してるだけかもしれない。

でも僕はハコに怒られるのが怖い夫のままだ。

絵里美が僕の傍に居ればハコはきっと不愉快になる。

森下先生の声がする。

視線をそちらに向ければ派手な赤いタイトなドレスで北川先生に纒わり付く姿が目に入る。

結局は北川先生がパートナーか…。

理事長は奥様を…。

新巻先生はご主人と…。

この船で孤独なのは絵里美だけだと僕は笑う。


「絵里美もいい歳なんだから、そろそろ自分のパートナーを見つけろよ。」


僕の嫌味に絵里美が怒りを露わにする。


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