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不器用な夫
第30章 おかえり



地獄の3泊4日が始まった。

お嬢様達が泣こうと喚こうとここは太平洋に浮かぶ船の上で逃げ場はない。


「先生っ!退屈だってばぁ!」


乗船、出航から僅か2時間で僕に喚く学生が居る。

その傍らに立つパートナーの男…。

つまり君は自分の彼氏をつまらない男だと喚いてるのだと言ってやるべきかと考える。


「図書館に行くか映画に行くか、デッキにあるプールで遊ぶか、ひたすらレストランで豚のように食事をする以外の娯楽はここに存在しない。」


当たり前を言い聞かせる。


「そんなの全部、つまんないっ!」

「なら、来年は君が楽しいと思う設備を船に寄付してくれよ。」

「私は来年は参加しないもん。」

「僕は参加するんだよ。」


退屈な船に毎年毎年参加する教師に同情しやがれと言ってやる。

船の所有者は学校だ。

この行事の為だけに所有する豪華客船。

昔は図書館と映画館がなく、父兄からの寄付で最近になって設置された。

少しはマシになったというのにお嬢様達の不満は収まらない。

そんなお嬢様達をかわして、ひたすら図書館に閉じ込もる。

この4日間を図書館に籠ると決めたのは僕だけじゃない。

果歩を始めとする外部受験を考える優等生はほぼ全員が図書館に居る。


「先生、ちょっといいですか?」


くだらない噂に振り回されずに自分の道を突き進む優等生達は僕を利用する。

せっかく古典の教師が居るのだからと読書をする僕に入れ替わり立ち替わりと質問にやって来る。

お陰で退屈はしない。

読書が全く進まないというだけだ。

ただ時々、海の向こうをぼんやりと眺めてしまう。

出来るだけ考えたくないが考えては泣きたくなる。


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