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不器用な夫
第30章 おかえり



去年と変わらない1年を過ごす。

君と暮らした2ヵ月が幻のように思える。

だからハコ…。

早く帰って来い。

毎日、海の向こうに向かってそう呟く。

ハコが旅立ってから2年の月日が過ぎた。


「先生、ありがとう。」


僕の教員室に果歩が来た。

果歩は自分の志望する大学に合格した。

外語大…。

その先の未来は通訳として世界に羽ばたきたいと果歩が目を輝かせる。


「君なら出来る。」


果歩はまだ一人暮らしのままだ。

緒方は僕との約束を果たし果歩に生活費と学費だけは援助してる。

果歩の父親は破産した後に、知り合いの会社で働き出したと果歩が言う。


「私の為にごめんね…。」


果歩が僕に頭を下げる。

しっかりと自分の道を歩き出した果歩を僕は自慢の生徒であり、褒めてやりたいと思う。


「もう…、行きなさい。」


果歩はもう卒業生だ。


「本当にありがとうございました。」


最後まで僕に頭を下げる果歩を送り出す。

季節外れの雪が降る。

何故か寒さは感じない。

この雪が溶ければ君が好きだった桜が咲く。

正門から続く桜並木を今年も僕は教員室の窓から眺める事になる。

君のように桜に見とれて遅刻する子を注意するのが今の僕の役目になってる。

だから桜の咲く季節に僕はずっと窓辺に立つ。

入学式…。

今年の僕は3年生の受け持ちだからと教員室で待機するだけの教師だ。

桜が満開に咲き誇る入学式が終わり、家族と帰る学生の姿をぼんやりと眺める。

今年の新入生も執事やメイドが保護者として付き添ってる学生が多いなと思う。

それはお嬢様学校名物だと笑うしかない。

ほとんどの学生が帰った桜並木の通路に僕の視線が釘付けになる。


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