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不器用な夫
第30章 おかえり



桜色のワンピースを着た髪の長い女性が入学式を済ませて帰ろうとする学生達に逆らって学校の校舎に向かって来る。

なのに、その女性が立ち止まる。

ゆっくりと桜を見上げて動かなくなる。

何、やってんだよ。

そう叫んでから僕は教員室を飛び出して階段を駆け下りる。

廊下を走るな…。

そんな当たり前を忘れて僕は正門に向かう廊下を走り抜ける。


「ちょっとっ!国松先生っ!」


新巻先生の叫び声がする。

それでも僕はスリッパのまま校舎を飛び出して桜並木のある正門へと走り続ける。


「ハコっ!」


桜を見てたワンピースの女性が僕に振り返る。

一気にハコの前まで辿り着く。

ハコが大きな瞳を更に大きくする。

何を言うべきかを僕は迷う。


おかえり?

愛してる?

遅かったな?


走ったから息が上がる。

口を開こうとする僕の頬で


パンッ!!


と手と手を合わせて叩くような小気味の良い音が響き渡る。

同時に僕の目にチカチカと星が飛ぶ。


「ハコ!?」


いきなりの挨拶がハコのビンタだ。

なのにハコは自分の手をジッと眺めて聞いて来る。


「ねえ、要さんっ!痛い?痛かった?痛いなら夢じゃないんだよね。」


僕の胸ぐらを掴むハコが興奮したように叫ぶ。


「夢か現実かの確認をするのなら、僕を殴るんじゃなく自分の頬を抓りなさい。」

「だって公平さんが要さんに会ったら一番最初に引張叩いてやれって言うんだもん。」


公平の野郎…。

僕の執事として躾し直してやる。

まだ姿が見えない公平に苛立ちを感じる。


「公平は!?」

「学校の外で待ってます。部外者は立ち入り禁止ですから…。」


ニコニコと答えるハコに項垂れる。


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