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不器用な夫
第6章 運転
わざわざ古典の専門である担任が我が妻の為にと買った参考書を有り難いとは思ってくれないのかと理解をしてがっくりと項垂れる。
「まさか…、このまま家に帰って即勉強とか言わないですよね?」
ハコが青ざめた顔で僕を見る。
試験前なのだから帰って勉強をするのは当たり前だろうと言いたいが、ハコの泣きそうな瞳を見ると言えなくなる僕が居る。
「ランチくらいはして帰る。ハコが行きたいお店を選べばいいよ。」
ランチくらいなら…。
可愛い妻を甘やかしても罪にはならないと考える。
「ランチ?ハコが選んでいいの?」
勉強以外の事になるとハコの目が輝き出す。
「あまり遠い店はやめてくれよ。」
僕の不器用な運転じゃ辿り着くだけで日が暮れる。
「大丈夫。その次の交差点を右に曲がって…。」
ハコが僕のナビゲーションをしてくれる。
もたもたとハコの言うなりに車を走らせる。
ハコが選んだ店はハンバーガーショップ。
それもフランチャイズされた一般的な店。
「こんな店でいいの?」
「ここがいいんです。」
ふんっとハコが鼻を鳴らす。
鈍い僕には、よくわからない気合いを入れてハコがその店に向かう。
「要さんは来た事ないの?」
「いや、あるよ…。」
随分と前に公平と来た覚えだけはある。
「坊っちゃまも庶民の食生活くらい知ってて損はないですよ。」
そんな嫌味を含んだ公平の言葉を思い出す。
パサパサのバンズにコテコテのパテが挟まったハンバーガーを決して旨いとは感じなかった。
そんな店に行きたがるハコの気持ちが僕には理解が出来ない。
やはり僕はいわゆるおじさんという類いに近いのだろうか?
ニコニコと笑顔で店に入るハコとは対象的にお化け屋敷に入るようにビクビクとする僕はハコの後ろについて行くだけの情けない夫そのものという醜態を晒すだけのハンバーガーショップでのランチとなった。