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不器用な夫
第7章 紳士
「いらっしゃいませ!」
甲高く張り切った女性の声がするだけで身体がビクンと強張り、足が竦んでしまう。
「ほら、要さん…。」
立ち止まる僕を残してハコはスタスタと注文カウンターの前へと歩み寄る。
「ハコ…。」
情けないだけの僕はアタフタとハコを追いかける。
カウンターの向こうではハンバーガーショップの制服を着た女性が訝しげに僕達を見る。
おじさんと女子高生の組み合わせを世間では夫婦だとは誰も思ってはくれないのだろうとかハンバーガーとは関係のない事ばかりを考える。
「えっと…、テリヤキのセットでコーラにナゲット、要さんは?」
慣れたように注文をするハコにそう言われても悩むだけの僕だ。
何でも公平任せだった僕には何を頼めば良いかすらわからない。
「ハコと同じで…。」
「なら、それを2つ。」
ハコの言葉に対して店員が
「ナゲットのソースはどちらになさいますか?」
と聞いて来る。
ナゲットのソース?
またしても悩む僕にハコが
「要さんは?」
と更なる追い討ちをかけて来る。
ナゲットのソースとはなんだ?
公平が頼んでたものを必死に思い出そうとする僕にハコが焦れたような顔をする。
「バーベキューかマスタードだよ?」
「辛い方は?」
「マスタード…。」
「黄色いの?」
「うん、そう…。なら要さんもマスタードでいいんだよね?」
テキパキとハコが注文を済ませてくれる。
お嬢様のハコの方が世間慣れしてる事実に驚くと同時にどんどんと自信を失くしてく。
料金を言われてもたもたと支払う間に商品が僕の前に押し付けるようにして差し出される。
財布を鞄に戻す事すら出来ずにハンバーガーやジュースが乗るトレイを抱える羽目になる。