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不器用な夫
第7章 紳士
不器用な僕が客席まで無事に運べるのだろうか?
人がうじゃうじゃと居る混み合った客席を見ただけで僕は怯えた顔になる。
「ほら、要さん。」
ハンバーガーが乗ったトレイを僕からハコが引き取るように引っ張る。
「ハコ…。」
「ついて来て…。」
情けない事に僕はそんなハコについて行く。
「国松家が凄いのは知ってたけど、要さんがこんなにお坊っちゃまだと思わなかった。」
お嬢様のハコがクスクスと笑う。
「ハコだって人の事は言えないだろ?」
食洗機の事でハコにやり返す。
「だって白鳥からはそれしか教わらなかったもん。」
ハコが白鳥の名前を出すと苛立ちを感じて胸が痛くなる。
何でもスマートに器用にこなすイケメン執事に慣れたハコは僕みたいな不器用で世間慣れしてない夫に満足してくれるのかと不安になる。
「ハコは…、こういう店が好きなの?」
話題を変えたくて聞いてみる。
「アメリカじゃファーストフードは当たり前の毎日でしたよ。それに、このテリヤキを考えた人って絶対に天才だと思う。」
本当に美味しそうな顔をしてハコがハンバーガーにかぶりつく。
「テリヤキは日本の味だからね…。」
はしたなく口にマヨネーズを付けたハコの口元を指の関節で拭ってやる。
「でもこのお店の何が凄いって、うちのシェフに同じものを作らせても絶対に同じ味にならないの。」
そんな事で目をキラキラと輝かせるハコが僕には不思議な存在だ。
高級素材ばかりを扱う一流シェフに安物のバンズとパテを作れと命じる方が残酷だろうとは思う。
それを素直に一流シェフにも出せない味だと受け入れてしまうハコのとてつもない器の大きさに違う意味での感心をする。