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不器用な夫
第7章 紳士
幕府が代わり、政権が変わり続けた時代。
戦国時代…。
疫病が蔓延し庶民が飢え、一揆や下克上で滅んだ名家も数え切れない。
その歴史の全ての時期が国松家嫡子問題の不安定な時期と当てはまる。
だから国松家の嫡子が6歳になる年に新しい当主が決定する掟が定められた。
嫡子が6歳まで成長すれば次期当主になるべき嫡子の生存確率が高まる。
医学がまだ未熟だった日本では6歳という齢はある意味成人を意味した時代がある。
その子を成すまでは…。
滅びる事すら許されない我が身を嘆く。
嘆く僕にお構い無しに時は流れ、日が暮れる。
「坊っちゃま…、お客様です。」
部屋の扉が少しだけ開き、東の声がした。
「客…?」
目立つ事を嫌い、人を遠ざけて生きる地味な僕に気安く訪ねて来る友人など存在しない。
父はそんな僕が不憫だからと公平を傍に付けたのだ。
そんな僕に客?
窓からは夕日が射す。
ゆっくりと部屋の扉が開き、まだベッドに横たわる僕の前に赤いスポットライトを浴びた人物のシルエットが見えて来る。
「具合はどうだ?」
ビンッと響くその声にビクリと身体を強ばらせる。
「何しに来た…?」
せっかく来てくれた彼から顔を背けて冷たい言葉を投げ掛ける。
「君と話す事がある…。」
太く低い彼の重みある声に身体が熱くなる。
興奮をする訳にはいかない。
なのに彼がわざわざ僕を訪ねて来たというだけで興奮が始まってしまう。
「曽我君と話す事はない。」
国松家の男として曽我を突き放す。
曽我は僕の言葉など耳に入らないかのような振る舞いでベッドに腰掛ける。
「曽我に対しての話しはないかもしれない。けど…、今日の俺は藤原家の人間としてここに来た。国松なら俺が言う意味がわかってるはずだ。」
曽我が僕の手に自分の手を重ねてそう言う。
藤原家として…。
曽我が何故…?
意味がわからず戸惑うだけの僕はただ曽我の端正な横顔に惹き込まれる感覚の中を漂うだけだった。