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第12章 帰ってきたAさん

「どうしてですか？」

「それがね、どうも結婚するらしいのよ」

「えっ、誰と、石井さんですか？」

私の心の中はいっぺんに遊ばれたとの思いが広がった。

「いいや、違うのよ。私たちの知らない人。なんでも若いけれどＩＴ企業の役員さんで、合コンで知り合ったらしいのよ。中国だか香港に支社を作るのに向こうに行くので、結婚してついて行くことにしたんだって。これはまだ内緒よ。どうやら、石井さんも知らないことらしいから」

そう言うと栗橋さんは辺りを見回して、誰にも聞かれていなかったことを確認するようにして戻っていった。

残された私は複雑な心境で、とても石井さんのことが可哀そうに思えた。