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僕の美しいひと
第7章 僕の美しいひと
清良は呆気に取られた。
「…貴方…何を言っているの…?」
「それから、ご結婚後も清良さんはこちらのご実家でお暮らし下さい。
お母様は貴女を片時もお離しになりたくないようですからね。
私は時折、貴女のお貌を拝見できてご一緒にすごせたらそれで良いのです」
原嶋の言う事は実に奇想天外であった。
「だってそれじゃあ貴方は何の得にもならないじゃありませんか」
原嶋は澄ました貌で答えた。
「貴女の夫になれます」
「それだけ?」
「貴女の一番側にいられる権利を得られる」
「そんなことだけでご結婚なさるのですか?」
…と、清良は少し意地の悪い眼をして原嶋を見遣った。
「…でも確かに、私と結婚したら高遠侯爵家の婿とは呼ばれますよね。
貴方のご商売にはかなりの信用と箔が付く筈だわ」
不意に原嶋が愉快そうに笑い声を立てた。
「全く、貴女の頭脳は明晰だ!
そういう目端が効く賢さも大好きですよ」
…そうして改まったように、もう一度清良の手を握り締めた。
「…貴女と私はきっと合うと思うのですよ」
「そうかしら…」
…確かに原嶋のことを、嫌いではない…と清良は思った。
原嶋は郁未とは真逆の男だ。
下町育ちの清良には、どこか懐かしい匂いすら感じる。
野生的で雄々しくどこか色悪めいた色香がある。
…それに惹かれないと言えば嘘になる。
…だけど…あたしは嵯峨先生が…。
考え込む清良の耳に、その言葉は飛び込んで来た。
「…嵯峨様は貴女にプロポーズはなさいませんよ。
あの方の美徳と武器は、優しさしかないからです。
優しすぎるゆえに、貴女に愛を告げられないのです」
「…そうでしょうね。
…いつでもそうです。
優しくて優しくて…腹が立つほど優しいひとなんです」
…でも、そこが好きなのだ。
もどかしいほどに優しく清潔な男に、反発しつつも恋していたのだ。
…けれど、私がこうして想い続けることも先生を苦しめるのかもしれない…。
哀しげに俯く清良の手に、原嶋は恭しく口づけた。
「…私を愛してなくて良いのです。
これから少しずつ好きになっていただけたら、それで充分です。
…私に、チャンスを頂けませんか?」
先ほどまでの余裕に満ちた様子は皆無だった。
男の瞳が一途に清良を見つめていた。
…清良は、男の手をとうとう振り払えなかったのだ。
「…貴方…何を言っているの…?」
「それから、ご結婚後も清良さんはこちらのご実家でお暮らし下さい。
お母様は貴女を片時もお離しになりたくないようですからね。
私は時折、貴女のお貌を拝見できてご一緒にすごせたらそれで良いのです」
原嶋の言う事は実に奇想天外であった。
「だってそれじゃあ貴方は何の得にもならないじゃありませんか」
原嶋は澄ました貌で答えた。
「貴女の夫になれます」
「それだけ?」
「貴女の一番側にいられる権利を得られる」
「そんなことだけでご結婚なさるのですか?」
…と、清良は少し意地の悪い眼をして原嶋を見遣った。
「…でも確かに、私と結婚したら高遠侯爵家の婿とは呼ばれますよね。
貴方のご商売にはかなりの信用と箔が付く筈だわ」
不意に原嶋が愉快そうに笑い声を立てた。
「全く、貴女の頭脳は明晰だ!
そういう目端が効く賢さも大好きですよ」
…そうして改まったように、もう一度清良の手を握り締めた。
「…貴女と私はきっと合うと思うのですよ」
「そうかしら…」
…確かに原嶋のことを、嫌いではない…と清良は思った。
原嶋は郁未とは真逆の男だ。
下町育ちの清良には、どこか懐かしい匂いすら感じる。
野生的で雄々しくどこか色悪めいた色香がある。
…それに惹かれないと言えば嘘になる。
…だけど…あたしは嵯峨先生が…。
考え込む清良の耳に、その言葉は飛び込んで来た。
「…嵯峨様は貴女にプロポーズはなさいませんよ。
あの方の美徳と武器は、優しさしかないからです。
優しすぎるゆえに、貴女に愛を告げられないのです」
「…そうでしょうね。
…いつでもそうです。
優しくて優しくて…腹が立つほど優しいひとなんです」
…でも、そこが好きなのだ。
もどかしいほどに優しく清潔な男に、反発しつつも恋していたのだ。
…けれど、私がこうして想い続けることも先生を苦しめるのかもしれない…。
哀しげに俯く清良の手に、原嶋は恭しく口づけた。
「…私を愛してなくて良いのです。
これから少しずつ好きになっていただけたら、それで充分です。
…私に、チャンスを頂けませんか?」
先ほどまでの余裕に満ちた様子は皆無だった。
男の瞳が一途に清良を見つめていた。
…清良は、男の手をとうとう振り払えなかったのだ。