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第7章 僕の美しいひと

「…清良…」
清良はその美しい黒瑪瑙色の瞳を潤ませ…けれど毅然として言い放った。
「…あたしの身はあたしが守る。
あたしはちょっとやそっとじゃ傷ついたりしないよ。
あたしのこと、何だと思ってんの？
あたしみたいに打たれ強い女はいないんだよ。
…それより、あんたみたいに馬鹿が付くほどお人好しで世話焼きで…でも…馬鹿みたいに優しいひと、危なっかしくて放っておけないよ。
…あたしが、あんたを守るよ」
「…清良…」
近づく郁未に清良が一歩踏み出す。

…その腕を、原嶋が捉えた。

「お待ち下さい。
清良さん、本当に良いのですか？
貴女はそれで、本当にお幸せになれるのですか？
嵯峨様は確かにお美しいしお優しい。
けれど、そのお優しさは裏を返せば優柔不断と言うことなのです。
私は愛するひとを迷わせたり不安にさせたりはしない。
…私の方が、嵯峨様より貴女を幸せにする自信はありますよ」

…散々な言われようだ…。
だがまったくその通りだから、返す言葉がない。
この言葉を聞いても、清良の気持ちは揺らがないのだろうか…。

清良が原嶋に向き直る。
「…ごめんなさい。原嶋様。
…でも…私、思ったんです。
幸せは、人にしてもらうものじゃない…て。
自分でなるものだ…て。
私の幸せは私が決めます。
…それに…自信がある…て…どうしてですか？」
原嶋が眉を顰める。
「…え？…」
「愛するひとを幸せに出来るかどうかなんて、自信がなくて当たり前です。
…幸せに出来るか自信がない…て、正直に迷ったり悩んだりするひとのほうが…私は好きです」
原嶋の雄々しい貌が、僅かに歪んだ。
「本当にごめんなさい。
貴方は間違いなく、強くて頼れる夫になれる方です。
…でも…」
清良は郁未を振り返り、朝陽に照らされた大輪の花のように笑った。

「…私は、少し頼りないけれど優しいひとと生きてゆきたい…私が守られるんじゃなくて私が守ってあげたい…そして一緒の歩幅で歩いていきたいんです」

…本当に…散々な言われ方だ…。
だが、涙が止まらない。
涙に滲む視野の中で、原嶋の手が清良の腕からそっと離されるのが見えた。

…清良の白いハイヒールの脚元がこちらに向かって走り出す。
ふわりと宙を舞った長いベールが、原嶋の手に残された。

紅い身廊を子どものように駆けてくる清良に走り寄り、郁未は強く強く…その身体を抱き締めた。