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第1章 愛妻

その夜、私は佐伯を連れて帰宅した。

「こんばんは。お邪魔します」

佐伯は礼儀正しく挨拶した。

「いらっしゃい。主人がいつもお世話になっております」

恵理子も丁寧に挨拶を返した。

今日の恵理子は襟元に花柄の刺繍の入った紺色のサマーセーターと薄手の花柄のスカート姿だった。

髪はアップにし、後ろで丁寧に留めてあった。

恵理子は今まで髪を染めたり、脱色した事がない。

恵理子の髪は元々、細くて艶がある綺麗な黒髪で、恵理子自身も自分の黒髪を気に入っているようだった。

そして、それがまた恵理子を清楚で貞淑な人妻と周囲に言わしめていたのだ。

私は佐伯を食堂のテーブルに案内した。

「何もありませんけど、今日はゆっくりしていって下さいね」

恵理子が冷蔵庫から瓶のビールを運んで来ながら、佐伯に声をかけた。

「いえいえ、奥さんの料理は美味しいですから、今日は楽しみにしてました」

俺にビールを注ぎながら佐伯が恵理子にお世辞を言っている。

既にテーブルにはつまみが何品か並んでいた。

「愛莉は？」

「もう寝ましたよ」

「お、そうか。もう9時過ぎだからな」

娘は2階の子ども部屋で寝てるから、よほどの騒ぎでもない限り、起きてくることはない筈だった。

「おい、今日はおまえも飲めよ」

私はキッチンで忙しそうに働いている恵理子に声をかけた。

「あ、はいはい。それじゃ、私もいただこうかな」

恵理子が素直に嬉しそうな笑みを浮かべた。

「すみません、トイレをお借りします」

佐伯が席を立った。

俺はこの隙に佐伯と恵理子のビールに薬を入れた。

「おい、今日は佐伯泊まらせるから、客間に蒲団を敷いといてくれ」

「そう思って、お布団を敷いておきました」

さすがに気が利く妻だった。

料理を全て出し終わった恵理子は俺の隣に座って、ビールを口にしたのだった。