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お良の性春
第4章  寝屋騒然 猛攻四十八手 新妻肉欲の目覚め
 そのとき、母屋から続く廊下に怪しげな影が一つ、音もなく離れへと向かっていた。
 行灯の点す薄明かりにボーっと白く浮かぶ障子の前まで来ると、その影は跪いて障子に触れるほど耳を近づけ、じっと中の様子を伺っている。

 影の正体は、女中のおミネ。

 この時代、田舎の小藩の城下町に、夜の娯楽などほぼ皆無。
 せいぜい、歌の上手いものが郷里の民謡を披露したり、踊りの上手なものが皆の前で踊りを踊って見せるぐらいが関の山。
 本を読むにも本はなく、そもそも、女中部屋に夜な夜な蝋燭を点しておくことなどまかりならぬご時勢である。
 秋の夜長に、手持ち無沙汰なおミネにとって、新婚夫婦の寝屋見物は格好の娯楽。
 このチャンスを見逃す手はないのであった。

 ごちゃごちゃと二人の睦言に聞き耳を立てていると、続いてせわしなく衣擦れの音。
 すると、投げ出された長い帯の影がフワッと舞って、障子に映ったその影は音もなく落ちた。
 おミネは思わず両手で口を押さえ、今、まさに始まろうとしている若夫婦の房事にほくそ笑む。

 と、そのとき、目の前に男の足。
 ギョッとして上目遣いに顔を上げると、立っているのは下男の彦三。

 「おミネさん、人を出し抜くのはいけないよ」
 「シー」とおミネが人差し指を立てる。
 「そろそろ始まるよ。静にしな」

 彦三は立ったまま人差し指を口に咥え、たっぷりツバをつけて、障子にブスッと穴を開ける。
 まさに、壁に耳あり障子に目あり。
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