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熟女美紗  情交の遍歴
第7章  欲情の花火 医師 健 
 小さな船が白線を残して目の前の海を横切っていった。
 いしだあゆみの歌が脳裏に浮かんだ。
 まるであの小船のよに・・・、美紗の心も別れに揺れていた。

 ・・・・・・・・
 
 「美紗さん、歌が上手いなあ。何と言う歌ですか」

 いつの間にか戻っていた健が歌を口ずさむ美紗の後ろに立っていた。

 「ブルーライトヨコハマ」

 健の声に振り返った美紗は、鼻歌を聴かれて照れくさかった。

 「もう一度歌って下さいよ」
 「一度聞いただけだから、出だしが思い出せないの」

 美紗は海に目を向けた。
 涙が頬を伝って流れた。

 (なぜ・・・なぜ涙が出るの)

 捨てられたわけではない。私が捨てたのに。
 それが自分から選んだ道にせよ、別れは訳もなく切ないのだ。
 健には気づかれたくない。
 美紗はバックからハンカチを取り出して、鼻でもかむような仕草をして涙を拭った。

 「行きましょう」

 美紗は先に立って歩き出した。
 健は黙って後ろからついて来たが、今度は腕を組もうとしなかった。

 (気づかれたかな)

 健の視線が気になった。
 美紗は「赤レンガ」に向かって歩を早めた。
 再び涙が溢れ、声を出して泣きたかった。
 しかし、そんな姿を健のような年下の男に見せるのは、あまりにも惨めだ。
 美紗は右手で口を覆って、今にももれそうな嗚咽を堪えた。
 観光客がぞろぞろと歩いている。
 キューッ、キューッとカモメの鳴く声がどこからともなく聞こえて来る。
 運河を越えると潮風が頬を撫で、髪を浚って吹き抜けてゆく。

 (早くこの風に涙を乾かして欲しい)

 美紗は風に向かって顔を上げ、赤レンガの手前を左に曲がって、汽車道に向かった。
 しばらく汽車道を歩くと、美紗は立ち止まった。
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