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熟女美紗  情交の遍歴
第7章  欲情の花火 医師 健 
 「きょうは、ここまでにして。あたし、帰るわ」

 美紗は桜木町駅に向かって歩を早めた。
 健は黙って美紗の後姿を見ていたが、しばらく迷ってから、駆け出して美紗を追った。
 追いついた健は美紗の肩に手を掛けた。
 美紗が振り向いた。

 「もう、涙は乾いたでしょう」

 健の言葉に、乾いたはずの美紗の目に再び涙が溢れ出る。
 美紗は堪え切れなかった。
 健の胸に顔を埋めると咽ぶように嗚咽した。
 健はそっと美紗の肩を引き寄せ、髪を優しく撫でた。
 美紗は汽車道を過ぎると近くの化粧室に入って涙の痕を消した。

 「医者のくせに女心が分かってないわね。ケンチャン」

 嗚咽した美紗の声は涸れて、おまけに鼻声だ。

 「僕の診断では、まだ全快には程遠いかな」

 健がからかうように明るい声で美紗に答えた。

 「ああ、嫌な人。医者には絶対向いてないわ。患者の心を抉るのが仕事なの」
 「その調子です。美紗さん、鼻声が大分よくなってきましたよ」
 「もう」

 二人は笑った。

 「さあ」

 健の差し出した手を取って、美紗は歩き始めた。

 「カラオケにでも行きましょう」
 「いいですね。たまには思いっきり歌いますか」

 その日二人はぶっ続け四時間もカラオケで歌いまくった。
 それから、横浜駅地下のレストランに入った。
 ロシア料理と看板に書いてあった。
 

 美紗は捻挫の夢を見ていたようだ。
 捻挫した美紗を俊輔が風呂場に運び、一枚一枚、丁寧に衣服を脱がし、裸にすると、シャワーを浴びせてくれていた。
 でも、おかしいのだ。
 なぜか、捻挫した足は触れても痛くないし、痛くないのに立っていられないのだ。
 それに、アメリカに行った俊輔がなぜいるのか美紗は不思議に思った。

 「俊輔君、俊輔君いつ帰ってきたの」

 美紗は必死に尋ねたが、俊輔は黙ってシャワーを掛けている。

 気がつくと美紗は自宅のベッドの上に裸でうつ伏せに寝ていた。
 裸身の上にタオルケットが一枚かかっていた。
 頭は割れるように痛い。
 完全に酔いつぶれたようだ。
 自宅までどうして帰ってきたのかも思い出せない。
 
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