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フリマアプリの恋人
第7章 秋桜の秘密
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澄佳は丁寧に挽いた豆を使ってコーヒーを淹れた。
片岡は窓際の席に座り、ややぼんやりした表情で窓の外を眺めている。
…そう言えば、このひとはいつもこの席に座っていたっけ…。
「…どうぞ」
ソーサーに乗せたコーヒーカップを片岡の前に置いた。
「…ありがとう…」
片岡が貌を戻し、澄佳を見上げて薄く笑った。
コーヒーカップを持ち上げ、一口味わう。
「…やっぱり美味いな。君が淹れたコーヒーは…」
しみじみとした口調で呟いた。
「…そうですか…」
…コーヒーの正式な淹れ方は、このひとに教わった。
上手に淹れると、眼を細めて褒めてくれた。
それがふわふわするくらいに嬉しかった。
…今、決して口に出しはしないけれども…。
「…この店、君一人で切り盛りしているんだな」
ぽつりと尋ねる。
「…ええ。祖母が亡くなりましたから、私が引き継ぎました」
ミルクピッチャーのミルクを勧める。
…途中からミルクを入れるのが、この男の好みだった。
不思議なものだ。
そんな些細なことを、身体が覚えている。
片岡は黙ってミルクを少し入れた。
「…結婚…していないんだね」
「…え?」
片岡の端正な眼差しが澄佳を捉え…やや弱気に伏せられた。
「少し、調べた。
…すまない…」
怒る気にはなれずに、小さく苦笑し自分に淹れたコーヒーを一口飲む。
「…別に…秘密にしていませんから…」
やや不自然な間があった。
「…でも、恋人はいるそうだね…」
ソーサーに戻す手が僅かに震え、茶器が耳障りな音を立てた。
「…聞いてもいいかな。…どんなひと?」
答えなくても良かったのかもしれない。
…けれど、答えたかった。
柊司の素晴らしい人柄を…このひとに聞いて欲しかった。
嫌味ではなく…。純粋な感情で。
だからゆっくりと口を開く。
「…とても優しくて…聡明で…清潔で…寛大で…私にはもったいないようなひとです…。
…それから…とても…ハンサムなひとです」
くすりと恥ずかしそうに笑った澄佳を、片岡は少し苦しげに微笑んだ。
「何をしているひと?」
「東京の大学の准教授だそうです。
…おうちも由緒正しいご出身で…私には釣り合わないような立派なひとです」
自嘲めいた笑みを漏らす。
…私には手の届かない高嶺の花なひとだったのだ。
最初から…。
「そんなことはない」
やや怒ったような片岡の声が響いた。
片岡は窓際の席に座り、ややぼんやりした表情で窓の外を眺めている。
…そう言えば、このひとはいつもこの席に座っていたっけ…。
「…どうぞ」
ソーサーに乗せたコーヒーカップを片岡の前に置いた。
「…ありがとう…」
片岡が貌を戻し、澄佳を見上げて薄く笑った。
コーヒーカップを持ち上げ、一口味わう。
「…やっぱり美味いな。君が淹れたコーヒーは…」
しみじみとした口調で呟いた。
「…そうですか…」
…コーヒーの正式な淹れ方は、このひとに教わった。
上手に淹れると、眼を細めて褒めてくれた。
それがふわふわするくらいに嬉しかった。
…今、決して口に出しはしないけれども…。
「…この店、君一人で切り盛りしているんだな」
ぽつりと尋ねる。
「…ええ。祖母が亡くなりましたから、私が引き継ぎました」
ミルクピッチャーのミルクを勧める。
…途中からミルクを入れるのが、この男の好みだった。
不思議なものだ。
そんな些細なことを、身体が覚えている。
片岡は黙ってミルクを少し入れた。
「…結婚…していないんだね」
「…え?」
片岡の端正な眼差しが澄佳を捉え…やや弱気に伏せられた。
「少し、調べた。
…すまない…」
怒る気にはなれずに、小さく苦笑し自分に淹れたコーヒーを一口飲む。
「…別に…秘密にしていませんから…」
やや不自然な間があった。
「…でも、恋人はいるそうだね…」
ソーサーに戻す手が僅かに震え、茶器が耳障りな音を立てた。
「…聞いてもいいかな。…どんなひと?」
答えなくても良かったのかもしれない。
…けれど、答えたかった。
柊司の素晴らしい人柄を…このひとに聞いて欲しかった。
嫌味ではなく…。純粋な感情で。
だからゆっくりと口を開く。
「…とても優しくて…聡明で…清潔で…寛大で…私にはもったいないようなひとです…。
…それから…とても…ハンサムなひとです」
くすりと恥ずかしそうに笑った澄佳を、片岡は少し苦しげに微笑んだ。
「何をしているひと?」
「東京の大学の准教授だそうです。
…おうちも由緒正しいご出身で…私には釣り合わないような立派なひとです」
自嘲めいた笑みを漏らす。
…私には手の届かない高嶺の花なひとだったのだ。
最初から…。
「そんなことはない」
やや怒ったような片岡の声が響いた。
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