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フリマアプリの恋人
第2章 鈴蘭のささやき
その夜、柊司は就寝前にスマートフォンを開き、メリマにアクセスした。
いつものように澄佳のページを開く。

…と、珍しくまだ売り切れていない商品ページがあることに気づいた。
意気込んでよく見ようとすると、コメントが何回か交わされている商品であった。

コメントが交わされている最中の商品を即購入することは、基本的にマナー違反であるらしいことを、柊司は最近知った。
公式ルールでは早いもの勝ちなのだが、ローカルルールが暗黙的にまかり通っているのがネットフリマの世界である。
無用のトラブルは避けた方が賢明だ。

柊司はコメントを読み始めた。

「購入希望なのですが、イヤリングを付けたイメージを知りたいので、着画を載せていただけませんか?」

柊司は思わずむっとした。
着画とは、出品者が商品を身に付け写真をページにUPすることだ。

洋服は人間が着用した方がイメージが湧き易いから、着画を希望する購入者がいるのは分かる。
…しかし、イヤリングは必要だろうか?
サイズもきちんと記入してあるのだ。
着画を求めるなど少し厚かましいのではないか?

次のコメントは、澄佳のものだった。
「分かりました。
それではイヤリングを着用した写真をUPいたします。
ご確認ください」

「え⁈なんだって⁈」
澄佳は当然断るだろうと思っていたので、思わず画面に向かって叫んでしまった。

…商品ページを慌ただしくスライドさせる。
最後のページに着画はあった。

横向きで、耳元から首すじのみの写真であったのにほっとする。

…しかし、その写真に柊司の眼は釘付けになった。

耳朶に付けられたイヤリング…濃いラベンダー色の葡萄の房の形のイヤリングであった…をよく見えるようにか髪は掻き上げられ、白い耳朶は露わになっていた。
…やや明るい琥珀色の美しい髪であった。
後ろでひとつに結び、バレッタで留めている。

顎の美しい稜線…透き通るように白い肌…そして、ほっそりとした長くしなやかな首すじ…。

…それは、柊司が思い描いていたものより、遥かに美しい姿であった。
柊司は、暫しその画像に眼を奪われ、見惚れた。

…と、同時に訳の分からない嫉妬に似た感情に襲われ、乱雑にそのページを閉じた。





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