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フリマアプリの恋人
第3章 紫陽花のため息
涼太はカウンターキッチンを挟み澄佳の前に立つと、幾分硬い口調で尋ねた。
「…あの男、泊まったのか?」
鍋に火を入れていた澄佳の手が止まる。
「…昨日、雷落ちたでしょ?すごい土砂降りになって、県道に出る道の川がきっと溢れてると思ったし。
他所から来た人が帰るの、危ないと思ったから泊めただけだよ」
答えながらてきぱきと炊飯器からご飯をよそう。
「でもそれだけ。何もなかったよ。当たり前じゃない」
「あいつはどんな奴なんだ?どこで知り合ったんだ?どういう関係なんだ?」
矢継ぎ早な質問に、わざと明るく笑い出す。
「そんなに一気にあれこれ聞かないでよ」
「澄佳。俺は心配しているんだ。また、お前が…」
澄佳の手がびくりと震える。
茶碗を取り落としそうになり、すかさず涼太がそれを手ごと支えた。
「…俺はお前にもう二度と辛い思いをさせたくないんだよ。…あいつ…片岡みたいな男に…」
「やめて!涼ちゃん」
鋭く叫ぶと、澄佳は涼太の手を振り払い、煮付けの火を止めに行った。
「澄佳…!」
澄佳は涼太に貌を背けたまま、感情を押し殺した口調で淡々と語り始めた。
「…あのひと…清瀧さんは、東京の大学の准教授なんだって」
「准…教授?」
「昔で言う助教授じゃない?イギリス文学の先生だって。
…フリマアプリのお客様なの。
妹さんの為に私が出品したアクセサリーを買ってくださって…。
何度かやり取りして、話が合ったの…。
それで、私がメルアドを教えたの。
…都会のインテリで洗練された大人のひとよ…。お育ちも良さそうだった。
そんなひとが私に本気なわけ、ないじゃない」
やや投げやりに言い捨てた澄佳に眉を顰める。
「澄佳!」
「分かっているよ、そんなこと。
でもいいの。私ももう三十だよ?
…私だって、ひとつくらいロマンチックな恋の想い出を作ったって…いいじゃない。
だから、もう放っておいて」
寂しげに微笑い、皿に金目鯛の煮付けを手際よく盛り付ける。
そんな澄佳を、涼太は切なげに見つめたまま、ひたすら立ち尽くした。
「…あの男、泊まったのか?」
鍋に火を入れていた澄佳の手が止まる。
「…昨日、雷落ちたでしょ?すごい土砂降りになって、県道に出る道の川がきっと溢れてると思ったし。
他所から来た人が帰るの、危ないと思ったから泊めただけだよ」
答えながらてきぱきと炊飯器からご飯をよそう。
「でもそれだけ。何もなかったよ。当たり前じゃない」
「あいつはどんな奴なんだ?どこで知り合ったんだ?どういう関係なんだ?」
矢継ぎ早な質問に、わざと明るく笑い出す。
「そんなに一気にあれこれ聞かないでよ」
「澄佳。俺は心配しているんだ。また、お前が…」
澄佳の手がびくりと震える。
茶碗を取り落としそうになり、すかさず涼太がそれを手ごと支えた。
「…俺はお前にもう二度と辛い思いをさせたくないんだよ。…あいつ…片岡みたいな男に…」
「やめて!涼ちゃん」
鋭く叫ぶと、澄佳は涼太の手を振り払い、煮付けの火を止めに行った。
「澄佳…!」
澄佳は涼太に貌を背けたまま、感情を押し殺した口調で淡々と語り始めた。
「…あのひと…清瀧さんは、東京の大学の准教授なんだって」
「准…教授?」
「昔で言う助教授じゃない?イギリス文学の先生だって。
…フリマアプリのお客様なの。
妹さんの為に私が出品したアクセサリーを買ってくださって…。
何度かやり取りして、話が合ったの…。
それで、私がメルアドを教えたの。
…都会のインテリで洗練された大人のひとよ…。お育ちも良さそうだった。
そんなひとが私に本気なわけ、ないじゃない」
やや投げやりに言い捨てた澄佳に眉を顰める。
「澄佳!」
「分かっているよ、そんなこと。
でもいいの。私ももう三十だよ?
…私だって、ひとつくらいロマンチックな恋の想い出を作ったって…いいじゃない。
だから、もう放っておいて」
寂しげに微笑い、皿に金目鯛の煮付けを手際よく盛り付ける。
そんな澄佳を、涼太は切なげに見つめたまま、ひたすら立ち尽くした。