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御主人様のお申し付け通りに
第16章 御主人様のために
永田のお爺さんが久しぶりに、今日うちの店に現れた。

その時に言われた、ネタバレってやつ。

「あの子もな、結構過去に傷付いておるんじゃよ。トシコちゃんみたいにマイナスをプラスとして考えれる子ならいいが。そんなふうに切り替えるのは男では、なかなか難しい」

「ひねくれてるのは、そのせいだったんだね」

「ひねくれちゃいないよ、うちの孫は。前の嫁さんが居なくなっても表面的では変わらずじゃ。逆に痛々しい限りじゃった、わしは」

嫁か…ケッ!

何かムカツクから、私は嫌な言い方で聞いてやった。

「出来た嫁だったらしいね、近所の人にイヤミ言われたよ私は…」

「そうじゃな、大卒のOLじゃ。愛想良くて気の利くおとなしい娘で、自慢の嫁だと期待してたんじゃが…それが本人は苦しかったかも知れんかったな」

大卒のOLって、それこそ男見つけの嫁修行で会社入ったんだろっての。

嫌いだねぇ、そんな普通の女。

しかしお爺さんは、いつもより真面目に話をするから、私は大人しく聞き手に回った。

「あんたとはえらい差じゃ」

コラコラ、分かってるけど何かムカツク。

「他人を自分の色に染めるのは難しい。わしはね、自由と引き換えに何もかも無くしたあんたが、わしを頼ってくれた時に、あんたは口では偉そうに言っても中身に色がないと思ったんじゃよ」

中身に色がない…。

確かに、自由と引き換えに、どうしたらいいのか困って貧乏生活を選んだ訳なんだけど。

「あの子も色を無くしていたからね。同じ色を無くしたもの同士なら、どんな色にでも相手も自分も染まったりできるじゃろ?」

「…そうかも知れない」

「赤や青や緑の時もある…黄色と赤ならばオレンジになる…どんな色でも色は色じゃ」

「絵の具みたい…。ねぇ、お爺さん。私が今でも永田さんに聞けない事があるの」

「なんじゃ?」

「私、変わるかな…例えば、また結婚してその辺りで普通に平々凡々と生きてる主婦してさ…それを幸せなんだって思える自分に…」

「構えたらいかん…自然に後から思えるのが幸せだよ?」

私の手を、お爺さんは握った。

「確かに永田さんの事では、お爺さんの言う通りだって思える事は多かったけど…」

「不安かい?大丈夫じゃよ。あの子の側に居たら絶対に大丈夫じゃ。好きな人の事は信じなさい」
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