この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
幸せの頂点
第12章 食事
克と話し合う体力が残ってない。
お風呂上りの私を克が見る。
「ねえ、紫乃?大丈夫か?」
大袈裟に私の顔を覗き込む。
この人は誰だっけ?
克を他人のように感じる。
いや、克と私は他人だよ。
まだ結婚してないもの…。
克のお義母様は克に過保護な人。
プロポーズを受けた後、一度だけ御挨拶に伺った。
『結婚?克君にはまだ早いと思うわ。それにね、出来ればもっと若い女の子を選ばないと子供が可哀想な事になると思う。』
客室で待つ私の耳には台所に居る克とお義母様の会話が丸聞こえ。
今にして思えばわざと聞かせたのだろう。
若い嫁なら克の思い通りの嫁にする事が出来るし子供もバンバン産める。
下手なキャリアウーマンは嫁に相応しくないってお義母様は考える。
『母が早く孫を見たいって何度も言ってたよ。』
帰り道に克が私に気を使う。
そんな克が嫌いだった。
惨めな私を更に惨めにする追い討ちを掛けてると気付かない克が嫌い。
今だって、ほら…。
私が疲れてるのに追い討ちを掛けて来る。
「ねえ、紫乃…、やっぱり来週だけど…。」
克が連休の話をする。
連休は百貨店には地獄なのよ。
私の体調にすら気付いてくれない克に苛立ちしか感じない。
部長なら私のちょっとした表情だけで全てを理解してくれるのに…。
「疲れてるの…。」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
「紫乃?」
「来週はまた出張なのよ。」
「だけど紫乃はボロボロだよ。無理をしてでも休みを取るべきだと僕は思う。」
苛立ちがピークに達してた。
「無理に決まってるでしょ!?連休明けまで休暇なんか無理っ!話があるなら連休明けにしてよ!」
私の甲高い言葉に克が目を見開いた。
私を信じられない物を見たような冷たい目をして克がじっと見る。
どうでもいいわ…。
今の私は克に本当の私を見せる。
それが正しい事だとあの人から学んだ。
綺麗事だけの飾られた世界から1歩を踏み出した私の胸の奥は克に対して空っぽな気分だった。