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幸せの頂点
第15章 破局



三島から富士の裾へと車が向かう。

部長は慣れたように運転する。


「前にも来た事が?」

「ある。但し、前回は生産者と折り合いが付かずに失敗した。」


一度、断られた商品だと部長が言う。


「何故、断られたのですか?」

「価格の問題だ。」

「価格?」

「異常な価格を吹っ掛けて来る。」


部長が苦笑いをする。

異常な価格?

百貨店が提示する価格では合わないという意味かと思案する。

見慣れた田園風景が見える。

その中にポツンと建つ民家の前で部長がレンタカー車を停める。


「ここが?」

「この時間なら自宅だと思う。」


部長は迷う事なく車から降りて農家の母屋へと歩き出す。

私も車から降りて部長の後をついて行く。

普通の農家に見える。

部長が母屋の玄関前にある呼び鈴を鳴らした。


「はーい…。」


如何にも農家の主婦という年配の女性が現れる。


「あら、佐伯さん。お久しぶり。」

「ご主人は?」

「居るわよ、上がって。」


その女性の案内で家の中に上がり込む。

長い廊下…。


「前に一緒に来た女性とは違うのね?」


部長を冷やかすように女性が言う。


「前の担当者が寿退社したので新しい担当者になったんですよ。今日はその御挨拶に伺いました。」

「あら、佐伯さんもおめでとうございます。」

「俺じゃないですよ?」

「お相手は佐伯さんじゃないの?おばちゃんはてっきりそうだと思ってたわ。」

「全然違いますよ。」


部長と女性が笑いながら話す内容が気になる。

前の担当者…。

高崎さんの奥様?

その人も部長と一緒に出張をしてた?

農家の奥様に誤解されるような関係だった?

克の偽りの姿を見た後だから今の部長も偽りの姿ではないかと疑ってしまう。


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