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幸せの頂点
第15章 破局
案内をされた和室の客間で胡座をかき新聞を読むご主人が居る。
40代半ばで作業服を着た如何にも農家の人だという雰囲気を持つ男の人…。
「佐伯さんか…。」
新聞から視線を外しご主人が部長を見る。
「新しい担当者を連れて来ました。」
今回の部長は随分と低姿勢だと感じる。
「ふーん…。」
ご主人はあまり興味がない素振りで私をチラりと一瞥する。
「はじめまして、食品部の野菜担当をしております阿久津と言います。」
和室の座卓に名刺を差し出してみてもご主人は私に興味を持つ気配がない。
代わりに奥様の方が私の名刺を持ち上げて私の顔と名刺の間で何度も視線を往復する。
「ご要件は?」
沈黙に焦れた奥様から話を切り出した。
「そちらで生産されている茄子の件です。」
部長からの情報を頼りに手探りで商品の存在の確認をする。
「前にも言ったがうちの茄子は御宅の仕入れ値に合わないよ。」
「いかほどをお考えですか?」
「Kg1万…。」
有り得ない値が言い渡される。
「茄子ですよね?」
ご主人に確認する。
「茄子だ。だが、あんたらはそれが欲しくてここまで来たんだろ?」
ご主人の嫌味な言い方に苛立ちを感じる。
茄子で松茸並の値を付ける生産者など有り得ない。
「そこまでの価値があるという意味ですか?」
「無いよ。だけど百貨店っていうのはブランド価値で勝手に相場よりも高値を付けて販売する。俺はそこが気に入らないんだ。」
「何故、良いものを良いと認めて値を付ける事が気に入らないのですか?」
「うちは無人販売で格安に出してる。後は道の駅にもな。普通の値ならともかく百貨店価格なるのが気に入らないってだけだ。」
ご主人は百貨店というブランド価格が気に入らないの一点張りを繰り返す。