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幸せの頂点
第3章 失敗



部長はそんな老人にニヤニヤと嫌な笑顔を繰り返す。

しばらくの沈黙…。

老人は黙ったまま農作業を続ける。

一通りの作業を見る限り、特別な部分は感じない。

作業を終えた老人が部長の方へ向き直す。


「何度来ても同じだ。」


老人から部長に話しかける。


「今日は俺が来たんじゃねえよ。俺は道案内をしただけで、爺さんに話があるのはアイツの方だ。」


部長が私を指差す。

いきなり話を振られた私はアタフタとする。


「あんたが?」


小さな老人が私を頭の先から足までを舐めるように見て吟味する。

スーツのポケットから名刺入れを出して老人との会話を試みる。


「新しく本店配属になった阿久津といいます。担当は…。」

「名刺なんか要らん。」

「ですが…、あのトマトについて…。」

「その事なら…、あの男にも何度も同じ事を言って来た事だ。うちのトマトは百貨店のような大きな流通には向いてない。」


老人が少し悲しげな顔をする。

部長はただニヤニヤと笑い続けてる。


「百貨店に向いてないとは?」


私は仕事をしなければと思う。

これは部長がくれたチャンス…。

初日で何もしてない私は大きなチャンスを部長から与えられている。

ものにしなければ…。

私の本店での評価が決まってしまう。

失敗すれば、その程度のバイヤーだったとこの先もずっとそう思われる。


「食ってみろ。」


老人が見繕ってくれたトマトを私に差し出して来る。

生産者である農家ではよくある事。

味もわからない人間に大切な野菜は渡せないという考えの生産者が多い。

そのトマトを軽くハンカチで拭いて一口齧ってみれば口の中いっぱいに爽やかな甘味が広がる。


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