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幸せの頂点
第3章 失敗

やはり糖度の高いフルーツトマトのイメージ。
だけど…。
「これは私が食べたトマトとは違うトマトなんですね。」
少し、がっかりした。
甘味は強いがそれだけのトマト…。
どこにでもある、ちょっと高級なトマトの部類。
きっと、これは当たり前に流通してる商品だ。
がっかりする私に老人が驚きの表情を見せる。
部長がくっくっとお腹を抱えて笑い出す。
「わかるのか?」
老人が厳しい顔で私に聞いて来る。
「1度食べたものなら…。」
それだけは自信がある。
それを美味しいと感じるかどうかは個人差があると私は考える。
ラーメンだって、こってりが好きな人にアッサリは物足りなく、アッサリが好きな人だとこってりは味がキツくて美味しいとは感じない。
味覚を押し付けるつもりはない。
ただ一般的に美味しいと感じるものの中で特別だと感じるものを私は厳選して来た。
その自分の勘を信じるだけの仕事をする。
「約束したはずだ。爺さんのトマトは俺だけが旨いと感じてる訳じゃない。味覚が確かな人間が旨いと感じて欲しがるなら流通を考える約束だろ?」
かなり以前から部長が老人に商品の流通を交渉してたのだとわかる。
老人は部長だけの味覚では流通させられないとでも答えたのだろう。
だから私を連れて来た。
私は部長の説得材料に利用された。
悔しさに唇を噛み締める。
それでも、このトマトをうちの百貨店で流通させる価値はある。
それが部長の手柄になるのだとしても、私は百貨店全体の利益を考えて仕事をする必要がある。
「ついて来い。」
老人が私だけをビニールハウスから連れ出した。
大きなビニールハウスの奥に小さなビニールハウスがある。

