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幸せの頂点
第19章 親子
うちの百貨店の社長が喜んで娘を差し出し佐丸の子会社になろうとする卑屈さが理解が出来てしまう状況に何を言うべきかの言葉まで失った。
「胸を張って堂々としろ。それがバイヤーという営業の仕事だろ。」
ビンッと私の身体に響く声で部長が言う。
受け付けの人や周囲の人達が何事かと部長を見る。
そこには何ものにも臆す事なき牙を剥く虎が居る。
誰よりも視線を集め堂々たる姿で仁王立ちする虎に周囲の人達の方が目を見開き口を噤む。
「あれが佐丸のご子息か…?」
そんな囁き声だけがする。
「神威っ!来たのね。ちょっと、あんたはこっちに来なさいっ!」
聞き覚えのある女性の声がした。
「姉貴…。」
「お姉さん…。」
部長と同時に女性に言う。
「あら、紫乃ちゃんと来てたの?ごめんね。紫乃ちゃん、ちょっとだけ神威を連れて行くわ。一族は一族だけで挨拶する必要があるのよ。まだ来てないのは神威だけだったから挨拶を済ませて来るわ。」
「ちょっと待てよ。俺は今来たとこだぞ。」
「だから、あんたが遅いから悪いのよ。叔父様達に挨拶だけ済ませたら終わりだから紫乃ちゃんを1人にしたくないなら、さっさと来なさいっ!」
然しもの虎は雌獅子には逆らえずにズルズルと引き摺られるようにして攫われる。
「部長…。」
「すぐ戻る。」
そう言って情けない顔をした部長はお姉さんと建物の奥へと消えてしまう。
後に残された私はどうして良いやらと途方に暮れる事になる。
「本日、佐丸の創立祭にご来客の皆様は中庭の方の会場にご案内しております。」
浅葱色の着物の女性に促されて私は建物の横にある別の小道を進む事になる。
たった1人でこの佐丸という敵陣で戦う事になる私は泣きたい気分のまま小道を進むしかなかった。