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幸せの頂点
第19章 親子
「やっぱりスーツの時の神威が一番好き。」
部長が運転する車の中ではしゃいじゃう。
「そうか…。」
部長はただ穏やかな表情で運転する。
緊張してるようにも佐丸の創立祭に抵抗する素振りも見せず言葉少なく私の話に返事だけしかしない。
部長の車はある屋敷のような所へと侵入する。
「ここは?」
昔の武家屋敷の様な壁が見える。
「料亭『藤原』。」
部長の声に緊張が走った。
「『藤原』!?東京に!?」
初めて来る一限お断りの料亭に私も緊張する。
「本店は京都だ。ここは確か戦後に取り壊しになる予定だった武家屋敷で藤原が買い取ったんだ。」
「なら東京支店?」
「らしい…。」
石砂利が敷き詰められた駐車場に車を停めて部長が屋敷への小道に向かい出す。
「こんな凄い場所で…。」
「ここの藤原の娘とうちのお袋が旧い付き合いだったって前にも言ったろ?高校生の時からの仲だったからお互いの結婚式にも参加してる。」
「お義父様はそんな付き合いを…。」
「そう、だから佐丸は全国で唯一『藤原』の商品が扱える百貨店になれたんだ。」
大きな門を潜ると建物までの小道に初夏を感じさせる浅葱色の同じ着物を着た女性達がズラリと並んで創立祭に来た来客を出迎える。
「ようこそ、佐丸の創立祭へ…。」
『藤原』の従業員のはずの女性達が佐丸の従業員のように接客までして来る。
「これが佐丸と藤原の繋がりなんだとわざわざ見せつけてやがる。」
吐き捨てるように部長が言う。
あの『藤原』との繋がりを見せつける事は経営戦略的に最も効果的だと思う。
まだ入り口に入っただけなのに、その格の違いを見せつけられて圧倒された気分になる。