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幸せの頂点
第20章 対立
どこまでも続く庭園…。
平安絵巻を思い起こす雅な景色…。
来客に着物の人が多い中で1人だけドレスという浮いた存在に感じる私は身を小さくする。
藤原がこんな場所ならば最初から言ってよ!
今は居ない部長にそう心で叫ぶ。
思えば初めての出張の時もそうだった。
ヒールよりもスニーカーの方が良いと思う場所に行くのに部長は何も言わない人だった。
俺様で自分だけが真っ直ぐに走り抜ける人。
そんな人に付いて行けると勘違いをした馬鹿な女だと1人にされて初めて気付く。
何を期待してここに来たの?
バイヤーとして成長するチャンスだと思ったから?
私が佐丸のご子息の女だと世間に見せつければ自分が認めて貰えると思ったから?
自分の強かさと狡さに到堪れない気持ちが湧く。
逃げなくちゃ…。
佐丸という怪物と私は戦える戦士じゃない。
日本庭園に相応しくないドレスを着てその隅へと逃げるように追いやられる。
自分の愚かさに涙が出る。
私は部長が居なければ何も出来ないバイヤーだ。
あの人が望むようなバイヤーじゃない。
私は自分の幸せだけを求めた愚かな人間…。
建物と建物を繋ぐ渡り廊下に身を隠すようにして寄り添って涙を流す。
帰りたい…。
それしか頭の中には浮かばない。
初夏の日差しの中、煌びやかな着物を着た人達が庭園に施された日傘の下で藤原が用意する最高級の料理を堪能する園遊会のような立食の創立祭。
その風景を遠巻きに眺めながら帰りたいとしか思う事が出来ない私は佐丸に相応しくない人間であるという証明に他ならない。
「神威…。」
お願いだから早く戻って来て私を連れて帰って欲しいと願う。