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幸せの頂点
第20章 対立
「気分でも悪いか?」
私の頭上から声がする。
ハンカチで慌てて目に溢れた涙を押さえて見上げれば渡り廊下の上に白髪混じりで立派な着物を着た初老の紳士が私の方を見下ろしてる。
「あの…。」
大丈夫です。
そう答えて紳士から離れたかった。
こんな煌びやかな場所で知らない人にめそめそと泣く惨めな女の姿を見せたりはしたくない。
「思った以上に暑くなってしまったね。君、すまないが何か飲み物を取って来て貰えないか?」
私が老人から逃げる前に老人は私に用事を言い付けると力なくその渡り廊下にへたり込む。
暑いというよりも湿度が高い。
梅雨が終わったばかりの初夏…。
庭園は風が通るが隅の辺りはサウナのように蒸して着物の老人にはかなり辛そうに見える。
「すぐに取って来ます。」
老人が何者かはわからない。
ただ具合が悪そうだから急いで冷たい飲み物を貰いに行く。
お酒は色々とあるがソフトドリンクは限られてる。
お茶やソーダ、オレンジジュース…。
老人に何を持って行くべきかを迷ってしまう。
とりあえず冷たいお茶と氷だけが入ったグラス、ペットボトルのミネラルウォーターを貰い更にカットレモンも貰った。
渡り廊下の下まで行き氷だけのグラスにレモンを絞り入れて水を入れる。
「それは?」
老人が聞いて来る。
「ただのレモン水ですが、この気温と湿度ならお茶よりも良いと思います。」
そう答えて冷たいお茶とレモン水の両方を老人に差し出した。
「そうか…、この暑さならレモン水の方が良いのか。それよりも君もこっちに上がって来ないか?」
老人が私も渡り廊下に上がって来いと言う。
渡り廊下は建物の一部だから、どうやって行けば良いのかすらわからない。