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幸せの頂点
第4章 絶頂



重い身体を引きずって家に帰る。

いつもよりも早い時間。

まだ夕方の6時。

早番でもその時間に百貨店を出る。

遅番なら百貨店を出るのは夜の9時を過ぎる。

家の鍵を開けて心臓が止まりそうになる。


「紫乃っ!」


青ざめた顔をする克が居る。


「克…?」

「夕べはどうしたの?いっぱい連絡したのに…。」


克の言葉に狼狽える。

昨日はバスに乗った時に克にメッセージを送っただけだった。

急な出張で帰りが遅くなると…。

その後は携帯をバッグに入れて見もしてない。


「ごめん、ずっと上司と一緒で…。」

「新しい上司?」

「そう…。」


上司と居る時に私用の電話はしない方が良いと教えてくれたのは克…。


「それで?」

「終電がなくなって…、凄い山奥で…、宿に泊まる事になったんだけど疲れて直ぐに寝ちゃったの。」


克がボロボロの私を見る。


「可哀想に…。」


嘘を付く私をそっと抱き締める。

罪悪感が半端ない。

克への背徳感に胸が痛くなる。


「とにかく、直ぐに食事の用意をしてあげるから紫乃はお風呂に入っておいで…。」


料理が趣味の克は私が疲れてる日は必ず私の為に食事の用意をしてくれる。

そんな優しい克が眉を顰め続けるから、まだ不機嫌なんだと感じる。

それは私への怒りじゃない。

私をボロボロにした上司への怒り。

部長への怒りを表わす克が怖かった。

誠実な克を裏切った最低の女だとわかってる。

罪悪感で息が詰まる。

克はひたすら私の心配を繰り返す。


「あまり無茶をする上司なら、紫乃は配置転換の申請をすべきだよ。無理な仕事で身体を壊してからじゃ遅いんだからね。」


部長への怒りをぶつけ続ける克の言葉が私の心臓を抉るように感じた。

私が悪いのよ…。

真実が言えないまま、幸せの頂点にしがみつく最低な女をやってた。


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