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幸せの頂点
第8章 店長
「紫乃…?」
克が私を抱き寄せる。
心配そうに私を覗き込みキスをする。
「売り場を見に来いって…。」
震えた声で克に言う。
「今の上司?」
笑顔だけの克が険しい表情を浮かべる。
私は小さく頷く。
あんな売り場では話にならないと言われるのかもしれない。
幻のトマトの価値を下げかねない売り場。
中途半端な仕事しか出来なかった私に今から売り場をどうにかしろと言う部長の言葉に泣きたくなる。
「一緒に行こう。」
優しく克が私の頭を撫でてくれる。
「克?」
「もしも、紫乃に働けと言うような上司なら僕が言い返してあげるから。」
荒っぽい事が出来ない克がわざとらしく拳を握って見せて来る。
「うん…。」
仕事を辞める事になっても仕方がないと思う。
私が克を裏切った罰だと考える。
「今日の紫乃は仕事なんかしなくていい。僕とランチを楽しんで買い物をするだけだよ。」
優しい克は私が仕事を辞める事になっても構わないと私の背中を押してくれる。
克との幸せをもう一度取り戻せるチャンスかもしれないと期待する。
デート用のお出かけ服に着替えてから克を手を繋ぎ家を出る。
克が居るから何も恐れる必要はない。
克の手を握り、百貨店の地下へと向かった。
「紫乃の売り場は?」
克が笑顔で聞いて来る。
自信がない売り場だと克には言ってある。
「こっち…。」
煌びやかに輝く他の売り場の間を抜けて自分のみすぼらしい売り場に向かう。
誰からも見向きもされない売り場だと思ってた。
「紫乃…?」
克が不思議そうに私を見る。
主婦っぽいお客様が何人か見える。