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幸せの頂点
第9章 感覚
エレベーターが開けば
「地下3階、駐車場でございます。ご利用ありがとうございました。」
とエレベーターを降りる人に向かってエレベーターガールと呼ばれる案内係が頭を深々と下げる。
うちの百貨店では、さすがにそこまでのサービスはしていない。
高級百貨店ならではのサービス。
地方百貨店はその地方に根付いてる強みがある。
都心から電車で1時間という距離の地方で根付いたうちの百貨店は首都圏に本店を構え東京ブランドだと勘違いをしてる部分があるが、全国規模である高級百貨店に比べれば大手スーパーと変わらない扱いをされる事もしばしばある。
そんな凄い場所で…。
俺様な虎がスーツ姿で腕を組みエレベーターの壁にふんぞり返る。
私を見下ろし不機嫌な表情を浮かべる部長を見るとキラキラの百貨店に夢を見て来店されたお客様の類いとは、かなり掛け離れてるとしか言えない。
これでは、まるで敵状視察に来てるみたい。
「部長…、何しに来たんですか?」
ヒソヒソ声で部長に聞く。
「お前のパンツを買いに来た。」
ビンッと響く野太い声がエレベーター中に広がる。
チラホラとエレベーターに乗っていた見知らぬお客様達が部長の声に固まるのがスローモーションのように私の目に映る。
瞬きする間にエレベーターの中は氷河期になり
ピキッ
と何かが割れる音が私の頭に響く。
「5階、婦人服専門フロアでございますね?」
冷えきった空気をものともしないエレベーターガールのお姉さんが爽やかな声で部長と張り合う。
空気を読めっ!
ムンクのように叫びたくなる。
私の叫びはスルーされ
「5階、婦人服専門フロアでございます。ご利用ありがとうございました。」
と高らかに響く声に見送られてエレベーターを降りる羽目になっていた。