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スキンのアンニュイから作品を作ってみませんか?
第2章 弓月 舞 様【君の視線が絡みつく】
「かゆい?」
「なんだか首の後ろがムズムズするからっ……そんなにじっと見ないでほしいの。今日も最後に小テストするんだし、それの勉強してて?」
「メンドクサイ」
「……」
私は本気で困っていたが
私の教え子であるユウキくんは、半笑いの声でさも可笑しそうに返事をする。
わかっている。至近距離で見つめてくるこの行為に意味なんてない。
彼はただ私を困らせて楽しんでいるだけだ。
思えば…今日クーラーが壊れたという話だって、本当のところはどうなんだろうか。
壊れているのが真実としても、なら下の階のリビングを使うなりの対処ができた筈だった。どうせ彼の唯一の肉親である父親はいま仕事で不在なのだし。
けれどユウキくんは当然のようにこの自室へ私を迎え入れた後、「ちなみにクーラー壊れてるから」とケロリと言い放ったのだ。
使うことを許されたのは小さめの扇風機だけ。
それが今、私たち二人の背中に頼りない風を届けている。
「……ねぇ、センセ」
「……なに?」
「あのさ、センセの首」
「……?」
「蚊(カ)が止まってる」
「え‥ッッ どこ?」
「なーんちゃって、嘘」
「な……!」
「ごめんごめん。だって痒いとか言い出すから、つい」
「…そ、そう」
「センセって普段はトロいのに俊敏な動きもできるんだね」
「……っ」
思わず採点の手を止めてユウキくんに振り向いてしまった私は、悪戯めいて笑う彼を前に恥ずかしさで赤面する。
まただ。からかわれた。
こういう時に面白い返しができればいいのだけれど、あいにく口下手な私は黙り込む事しかできない。
三つも年下の高校生に…
また…馬鹿にされてしまう。
学校の先生になるのが将来の夢なのに、家庭教師ですらこんな具合では先が思いやられる。
「あまり、ふざけないでね……っ」
控えめに注意するだけで精一杯だ。
「もうすぐ丸付け終わるから」
結局強く言い返せられないから、私は大人しく採点に戻る。
.
.
「終わった…よ」
「どうも。何点だった?」
「ほとんど正解──…その、最後以外、ね。…あの、ユウキくん?どうしていつも最後の1問だけ間違えるの?」
「知らないよそんなの」
採点の終わったノートはユウキくんに返した。
けれど私を見ている彼は、返されたノートにチラリとも目を通さない。