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スキンのアンニュイから作品を作ってみませんか?
第2章 弓月 舞 様【君の視線が絡みつく】
問題の復習を始める。
それでも彼の視線から逃げられない。
「この問題でPの軌跡を求めるには……」
ああ……すごい。真っ直ぐ見られてる。
「…与えられた式を…!…放物線か円の式に変形しなきゃいけないから…」
唇の動きから、まばたきのタイミングまで、全部
全部
あの目がずっと見てる。
何も見逃してくれない。
「まずは変数を右辺に……ッ」
声が途切れそうになる。
息が止まりそうになる。
まるであの視線に…絡み取られているみたい。
ねっとり、じっくりと、太い蛇が私の身体を這い回るような錯覚。
私は必死に絶えて、説明を続けた。
ヂリヂリヂリヂリ
ジージージージー、ジージージージー
さらに追い打ちをかけるがごとく、セミの声が頭に響く。
夏の怠さを凝縮した音の洪水…。
声を出そうと息を吸うごとに、乾いた喉が焼かれる。
暑い。
「……ッ─のように変形して……公式……を……」
ヂリヂリヂリヂリ....
「…ッ…は…!……ハァ……ハァ……」
暑い……。
肌に当たる空気も、吸い込む空気も
いや、それだけじゃない……
身体の内側──みぞおちの下のほうから、どんどん身体が火照ってくる。
彼の視線に晒されるだけで
苦しいくらいに熱くなる……。
「……汗」
「…ハァ、ハァ……ッ……ぅ」
「汗が凄いね……センセ」
「ハァ…ハァ………使う…‥公式…は、…‥‥これ、で」
「………」
私は必死だった。
自分が何を喋っているのかわからなくなるほど、集中できていなかったけれど
彼の言葉も聞き取れないくらい上の空だったけれど
私は説明を止められなかった──たぶん、止めた途端に彼が取るであろう次の行動を想像して、怯えていたからなんじゃないか。