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第14章 有明月

向かいの席に腰かけた雅の紅く染まった唇を、私は親指の腹で拭う。

雅は目を瞑ってされるがままになっていたが、私はそのしっとりとした唇の感触にはっとしてそっと手を引いた。

「ママ役が板に付いたな……、と思ってね」

「雅様は産まれた時からずっと、月都様をお世話されてきましたからね」

東海林も私達兄妹を見て、控え目に微笑む。

その時、突然月都がわあと泣き始めた。振り向くと、芝生を駆けていた月都が転んで泣いているのが目に入る。

「あら、やっぱり転んじゃったのね」

雅は苦笑いして席を立ち、月都の元へ小走りで駆けていった。

小柄な雅と月都では、まるで年の離れた姉弟に見える。

「そうだったね――」

私はさんさんと降り注ぐ初夏の日差しが眩しくて、そっと目を閉じた。  



私は敦子の葬儀の後、妻の好きだった薄緑色の薔薇を携え、非常階段の一階の踊り場に立っていた。

広がった妻の血は警察の検分を終えた後綺麗に洗い流されていたが、私には妻の血の匂いと薔薇の香水の香りがまだそこに感じられた。

しかし心が余りに疲れて麻痺し、哀しみや恋しさという感情が呼び起こされることは無かった。

『……月都を渡して』

風に乗って聞こえてくる、甘えん坊特有の舌ったらずな可愛い喋り方。

(………………?)

『――渡してってば……』

再度聞こえてきた声は、少し苛立ちを含んでいた。

(――誰だ?)

月哉は辺りを見回すが、声の主の姿は見えない。

「美耶子、お願い……! お姉様を殺せただけで、充分でしょう……」

相対する押し殺したような声を聞いた時、私にはそれが妹の雅の声だと分かった。

「………………」

(敦子を、殺した――?)

妻の葬儀を終えたばかりの今、冗談では済まされない内容の会話が今自分の前で繰り広げられていた。

『駄目よ……お姉ちゃんをさらに悲しませる為には、月都も殺さないと駄目なの。大体、雅が最低でも四ヶ月は殺すなって言うから、しょうがなく待ってあげたのに――。雅ったら月都を助けちゃうんだもん』

今度は少し大きく聞こえ、その声は階段の上方から聞こえているのだと分かった。

可愛い声はまるで遊んでいるかのように楽しそうで、会話の内容とのあまりのギャップに、気がふれた者の物言いに聞こえた。

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