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第14章 有明月

そんな私には気づかず、妹達の会話は進む。

『ふうん。……まあ私には分からないわ。私、結局 恋愛しかしたこと無いんだもの……でも雅を見ていると次に私が生まれ変わっても、人を愛するの……ちょっと恐いわ――』

「……そう?」

雅は、首を少し傾げて笑った。

『そうよ。……はぁ……、しょうが無いわね。雅の頼みじゃ、無下に出来ないわ。雅……ちゃんと月都を愛しぬいてあげなさいよ。私の甥っ子にもなるんだから』

影が少しずつ、上空に引っ張られるように細長くなっていく。

「―――っ 美耶子! ありがとう……っ ……ねえ、私達……今度出会えたら、親友になれるかな――?」

雅がぼろぼろと大粒の涙を流しながら、影を追う。

『ふん。……まあ、考えておいてあげるわ……』    

そう言うと、影は跡形も無く消えた。

後には、階段に蹲ったまま泣き続ける雅と、その腕の中で安心しきって眠る月都だけになった。

私は魅入られたように儚い月光に晒された雅の横顔を、いつまでも見つめていた。




「……パパ? ……パパ?」

深いまどろみにいる私の耳に、息子の呼ぶ声が届く。

「あら、お兄様ったら眠っちゃったのね。月都、おてて洗ってらっしゃい」

雅の優しい声と、そっとブランケットを胸に掛ける気配を感じ、私は降りていた重い瞼を開いた。

目の前には細めた瞳で私を愛おしそうに見つめる雅がいた。

「お兄様、こんな所で眠られたら、風邪を引きますわ」

「ああ、そうだね……」

私は相槌を打つと体を起こし、雅の髪の毛についた葉っぱを取ってやる。

「雅もまだまだお子様だなあ」と冷やかすと、妹は少し頬を染め可愛く膨らませた。

私は悪戯心が芽生え「そう言えば……」と妹の顔を覗き込む。

「月都の初恋の相手って、雅だって、知っていた?」

私はにやりと笑うと視線を雅から、外の水道で乳母と手を洗う息子へと移す。

「そうなの? まったく知らなかったわ……ふふ、光栄ね――」

隣の椅子に腰掛けた雅から、くすりと少し苦みを含んだ笑い声が零れる。

かちゃりと茶器を持ち上げる音がして、その後、紅茶を飲み下す微かな音がした。

ほうと息を吐き出した雅の吐息を聞きとめながら、ずり下がったブランケットに手を伸ばそうとした、その時――、

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