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第14章 有明月

『…………私を、愛して、いる――?』

影の声が雅の声から、全く知らない少女の高めのそれに変わる。

「ええ、そうよ」

『……月都の名前は、私から?』

「ええ。私の愛するお兄様と、美耶子、貴女から取ったのよ」

いい名前でしょうと、雅は膝の上で眠る月都の顔を覗き込んだ。

『お姉ちゃんも、そう言っていた……いい名前で、良かったわねって――』

「……お姉様、もしかしたら気付いていたのかもしれないわね。私達の事――」

「いぃ~~」っと、月都がまるで相槌を打つように、寝言を発した。

しばらく辺りに沈黙が下りていたが、やがて美耶子が口を開いた。

『ねえ……雅。私、雅のことがずっと不思議だった――。月哉は、雅のお兄ちゃんで、しかも、雅の気持ちなんていつも無視して、好き勝手に雅を操っている。どうしてそんな人を、いつまでも好きでいられるの――?』

美耶子の指摘に雅はくすりと笑った。

「美耶子ったら、ひどい言い方! そうね……確かにお兄様は……残酷な方だわ。本人は無意識で、私がお兄様の虜になるよう、振舞っていらっしゃるのだもの――」

『でしょう?』

美耶子はすかさず、同意する。

「……解らないわ……自分でも解らない。ただ、理由なんてないの、愛しいの。どんなに疎まれても、傍にいたい……ずっと、ずっと愛しているの――」

雅は、それは幸せそうに笑った。

今までに見たことが無い、裏表の無い無邪気な笑顔だった。

私は妹のそんな表情から目を離せなくなった。

(雅が私を男として、愛している――)

それはもう、疑いようのない事実のようだった。

雅本人もそう言っているように、血のつながった兄妹であるにも関わらず、妹は私の事を好きになってしまったのだ。

私は彼女の事を妹以上には思えないのにも関わらず――。

「………………」

(―――本当に?)

自分の中の何かが、私自身に問いかける。

(雅はさっき、なんて言った――?)



『本人は無意識で、私がお兄様の虜になるよう、振舞っていらっしゃるのだもの――』



どくり。

私の心臓が、凍っていた心が、今鼓動を始めたかのように、大きく跳ねた。

(―――まさか)

私は愕然として、震え始めた両足で支えられなくなった体を非常階段に接する外壁に倒れるように凭れ掛ける。

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