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妹
第8章 十六夜月(いざよい)
雅は月哉がいるとよく笑うし、よく食べる。
雅は朝食にしては品数の多いコースをぺろりと平らげ、テーブルにうず高く盛られたフルーツにも嬉しそうに手を伸ばしていた。
東海林は雅に誘われ、庭に来る鳥達にパン屑をやって餌付けを試みたが、何故か鳥は雅の手からは餌を取らず、東海林は雅に羨ましさと恨めしさが混在した目で見つめられた。
(のどかな休日。月哉様がいて、雅様が笑っていて……こんな日が一日でも長く続けばいい)
東海林がそう思ったのも束の間、鈴木が月哉にアポイントのない来客が来た旨を告げた。
「こんな朝から非常識だね……誰?」
雅を愛おしそうに見ていた月哉は、突然の来客に迷惑そうな顔を隠さず言った。
鈴木が差し出した銀盆に載せられたカードに目を通した月哉は目を見開くと、素早く雅の方をちらりと盗み見した。
付き合いの長い東海林は、直ぐに月哉の様子から相手は仕事関係者ではなく、敦子だと感じた。
「……東海林、悪い。暫く雅の相手をしてやってくれるかな。直ぐに戻るから」
椅子を引かれて立ち上がる月哉を、雅は拗ねた顔をして見上げる。
「お兄様、そんな非常識なお客様のお相手をされる必要はありませんわ。雅、今日はお兄様を独り占めしたいわ」
「そんな顔しないで雅。急ぎの用らしいんだ。直ぐに戻って来るから……」
月哉は雅の頭をわしゃわしゃ掻き回すと、使用人に伴われてサンルームを出て行った。
「ねえ……東海林、お客様って誰だと思う?」
月哉が消えて数分しか経っていないが、雅はもう頬を膨らませている。
「さあ、仕事関係の方ではないでしょうか」
東海林はポーカーフェイスでしらを切る。
「それは無いのではないかしら。だったら東海林にも、誰だか言って行く筈だわ」
「……ご友人かもしれませんよ、アポなしですし」
「ねえ……覗きに行ってみない? お仕事関係の方ならご挨拶すれば良いのだし」
言うや否や雅は椅子を引いて立ち上がると、東海林の手を取って引っ張る。
「雅様、やめましょう。社長は直ぐに戻られますから」
やんわりとたしなめる東海林に、雅は面白くなさそうな顔をした。
「いいわ! 雅ひとりでお兄様を迎えに行ってくるから、東海林は待っていて」
雅は楽しそうに笑うと、踵を返して廊下に向かって走り出す。