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ネコの拾い方…
第3章 ただの凡人だから…
「まあ、ええわ。それよりもお前に聞きたい事がある。」
僕よりも一回りも大きな身体で遼が僕に迫る。
「藤原が吉岡を見捨てた件ですか?」
「は?そんなんはどうでもええ事や。俺かてオトンらが死んだ途端に俺を頼ろうとする親戚連中を見捨てたからな。」
遼が僕の目を覗き込む。
ほんの少し僕が顔を上げればキスが出来るほどの距離に遼が居る。
心臓が爆発しそうな勢いで鼓動する。
天才に対する憧れ…。
僕は遼に惹かれてる。
いや…。
彼に惹かれない人間なんか居ない。
彼は特別で、絶対的な存在…。
僕のように、ちっぽけで平凡な存在は彼に平伏して当たり前なのだろう。
だから、真っ直ぐに彼の目を見る事すら叶わない。
遼の指先が僕の顎を軽く持ち上げる。
「ミナミに出没する『トキ』って男はお前やろ?」
遼の言葉が耳で木霊する。
「…な…んの…こと…?」
「とぼけるな。夏だけ現れる美少年…。ここ4年くらいで随分と有名人になっとるやんけ。」
遼がニヤニヤといやらしい笑いを浮かべる。
そう…。
僕は遊びに本名を使ってない。
藤原の名を汚す事が許されない僕は『トキ』と偽名を名乗ってる。
「その『トキ』にこっ酷く振られた言う女としばらく付き合ってた事がある。その女の話を聞いて俺はすぐに清太郎やと思うた。俺の勘は外れた事がない。」
自信満々で遼が言う。
この強さが羨ましく妬ましい。
「先輩が言ってる意味がさっぱりわかりません。そんなくだらない事で僕を呼び止めたのですか?」
怯えを隠し、虚勢を張る。
この人に勝てるはずなんかないとわかってるのに…。
これ以上、惨めな自分にはなりたくないのだと僕は遼の存在そのものを拒み続けていた。