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ネコの拾い方…
第3章 ただの凡人だから…



1年生しか居ない教室だというのに遼は僕の手を握ったまま隣に座って講義を受ける。


「吉岡、お前、留年でもしたんか?去年もこの講義は受けただろ?」


講義をする先生が有名人である遼に声を掛ける。

遼は平然と


「先生の講義が好きだから、自主参加してるだけです。」


とか答える。

お陰で教室中の視線が僕に向けられる。

迷惑だと思うのに遼が握る手が熱くて逃げられない。

講義が終われば遼が無理矢理に僕を大学から連れ出す。

遼が向かった先は僕の家とは違い、とんでもないボロアパートだった。


「俺ん家…。」


遼がニヤリと笑う。


「親戚の家に居たんじゃなかったの?」


僕が質問すると遼が照れたように鼻の頭を指先で搔く。


「大学の入学が決まった瞬間に追い出された。親戚や言うても破産寸前の家族やからな。国立でも医学部の馬鹿デカイ学費は払えん言われた。だから今の俺はあの山を売り飛ばした金を学費にしてる究極の貧乏学生って状況や。」


あの山はもう無い。

それでも吉岡の残り僅かな財産を食い潰すだけしかしない親戚の中で遼はあの山から作り出した資産を遣り繰りしてここまで来たと言う。


「清太郎は医者になるんか?」

「違うよ。藤原の当主は代々が医学部を卒業する仕来りになってる。先輩は医者に?」

「別に、なりたいもんがなかったから、とりあえず医学部にしただけや。」


天才は何にでもなれる。

それを遼から感じる度に僕の心が傷付く。

僕は凡人で努力するしかない立場だ。


「それよりも先輩って呼び方、他人行儀やな?」


遼が不貞腐れた顔をする。


「他人ですからね。」


僕は冷たく遼を突き放す。

藤原は吉岡を関係のない家と決めた。

遼の存在は一度会っただけの他人なのだと僕は藤原の決定に従う。


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