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向日葵の姫君~王女の結婚~(「寵愛」第三部」)
第54章 向日葵の姫君~The Princess In Love~
☆紅順は静かな声音で告げた。
「国王である父上のお立場をもってしても、断りにくい縁談なのですね」
 父はハッとしたように眼をまたたかせ、まじまじと紅順を見た。
「情けない話だが、そういうことだ」
 吐息混じりに呟く。
「では、このようにされてはいかがでしょう」
 紅順は声を潜め、父に近づいた。
「我が儘王女のいつもの我が儘がまた始まった」
「それだけで断る理由になるものやら」
 父は珍しく弱気である。即位した若い頃から、父どころか祖父ほどの年かさのベテラン大臣たちを畏怖させてきたという王ではあるが、家庭で見せる素顔は至って子煩悩な優しい父親だった。
 紅順はあと一押しとばかりに父に念押しした。
「父上と母上のような素敵な恋愛結婚をしたいとまで贅沢は申しません。されど、興真君のように女人を単なる玩具(おもちや)のようにしか思っていない方の妻になるのだけはご免です」
「父と母のことなどいちいち持ち出さずとも良い」
 父の顔が心なしか紅くなっている。照れているのだ。英宗はしばらく思案している風だったが、やがて頷いた。
「判った。この縁談はやはり断ろう」
 慎重で思慮深い父ではあっても、ひと度決断を下せば翻すことはない。それが一国の王としての父の表の顔だった。
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