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銀行員 有田雄一、私は「女」で出世します
第4章 ママ、お願い。お礼は体で払います
≪藁をも掴む思い≫

「今夜、どうだ、白山のスナック?」
「あっ、いや、すみません。子供が産まれそうなので」
「あ、そうだったな。すまん、すまん」

有田は榎本課長からの誘いを断った。元々は接待の際に、榎本課長に連れていってもらったのだが、今やママとは他人ではない。
これこそ、「君子、危うきに近寄らず」、職場の上司にママとの仲を勘づかれてはいけない。

「ところで、吉田社長の件はどうなっている?」
「あ、あの、もう一度接待しないと…」
「困るじゃないか。お前がもう一息と言ったから東京ドームにも、あのスナックにも連れていったんだ。それが『もう一度』だと?いったいどんなセールスをしているんだ。寝ぼけてんのか!」

飲みの誘いを断れば、直ぐに仕事で詰めてくる。それもあのスナックを絡めて…全く嫌な上司である。

今期の営業目標として、有田には「吉田機械株式会社の全取引及び社長の個人取引も当行に集中させる」が課せられているが、苦戦している。元々、メイン銀行との結びつきが強いので、接待には応じてくれたものの、取引については「その話は次回」と逃げられてしまう。

来週には一週間の休暇を取って、九州の実家に里帰りしているワイフの初産に付き添う予定だから、もう時間がない。

吉田社長は今ではあのスナックの常連、こうなっては、「藁をも掴む思い」だ。
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