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銀行員 有田雄一、私は「女」で出世します
第6章 エロ芝居?それはないぜ
「いらっしゃいませ。お二階へどうぞ」
仲居に案内されて通された八畳間では既に小鹿が着物姿の女性を相手にちびりちびりと日本酒をやっていた。
「へえ、これが噂の芸者さん?」と久美子がバックを置くと、ニヤッと笑った小鹿が「そうだ」とお猪口の酒を飲み干した。
「雪乃(ゆきの)です。よろしくお願いします」
笑顔を返した女は年の頃は35前後、細面の男好きのする顔、久美子は「なるほどねえ」と頭のてっぺんからつま先まで見定めながら腰を下ろした。
これを見た有田は「ある、何かある、これはヤバイぞ…」とピンときたが、それより先にお礼をしないと、「この礼儀知らずが!」とお猪口が飛んできかねない。
「この度はどうもありがとうございました!」
有田はその場に正座すると、やや演技過剰気味だが、畳に手を突いて、と頭を下げた。すると、二人は
「まあ、いい。あの件は、そんなところでいいから、もう頭を上げろ」
「有田ちゃん、そうよ。ダンナがこう言うんだから、頭を上げて」
とご機嫌。これはますます怪しい。
「あらあら、どうしちゃったんですか?」
そこに女将が仲居と一緒に上がってきた。
「こいつ、芝居が好きなんだよ」
「あら、いい男ねえ」
「お、有田、お前はもてるなあ、あ、あははは」
流石、小鹿だ。こういう場面での如才ない振る舞いにはほとほと感心する。