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置屋に生まれて
第2章 童貞喪失
あれは高校1年の夏休みのことだった。

午後8時過ぎ、明彦は小料理屋で酒を飲んでいた父親に呼び出され、「これを増子に届けて欲しい」と紙袋を手渡された。

だが、時間が時間だけに、「今から?」と聞くと、「ああ、そうだ」と言うと、ニヤッと笑って盃をあおっていた。

増子は中肉中背の目立たぬ女だったが、明彦は好きだった。

「おはようさん」

彼女の声が聞こえると、二階の勉強部屋にいても落ち着きがなくなり、芸妓たちの溜まり場になっていた一階の十畳間が気になって仕方がなかった。

中学生の頃、「明彦ちゃん」と声を掛けられ、顔が赤くなったのを母親に見られ、「あらあら、色気づいちゃって」と笑われたことがあった。

だから、言葉とは裏腹に父親の言い付けは嬉しかった

「じゃあ、行ってくるよ」
「頼むな」

明彦が小料理屋を出ようとした時、父親は「明彦」と呼び止めた。

「何?」
「ゆっくりしてこい」
「え、なんで?」
「ははは、行けば分る」

父親はそう言って笑っていた。
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