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⊥の世界
第12章 そして誰も居なくなる?
パート司書さんによれば、その人は半年前くらいから来館するようになって、最初から今のペースで来館されているらしい。
この仕事をしているのに、なかなか自分の読書の時間は取れない。
「本当に偉いですね。」
そのうちにその人のことを司書の間で『読書家さん』と呼ぶようになっていったのだ。
「あの、すみません。」
「あ、えっと、はい。」
土曜日の午後、棚の整理をしている時に声をかけられた。
スーツ姿でなかったのでわからなかったが、読書家さんだった。
「このシリーズの3巻、貸出中ですか?
一昨日来た時はあったんだよね。」
「その本なら、修理してます。」
「修理?」
「はい、装丁あの曲がっているところとか、バラバラに外れてしまいそうなページを補強するんですよ。
もう終わったので今お持ちしますね。
それと貸出中か、この館に在庫があるかなど、端末で検索できるんですよ。
ご案内いたしましょうか?」
「はい、是非御願いします。」
本好きな読書家さんの為に、
そう思っていたからか、男性と意識して緊張してしまうなどもなく、自然に話すことが出来た。
一緒に端末機まで行き、操作を説明する。
「ジャンルや著者で検索出来て本選びにも使えますね。」
読書家さんにとても喜んでもらえて良かった。
一度話したことから、貸し出しの手続きの際や、棚の整理をしている時に声をかけられるようになる。
そのうちに読書家さんお薦めの本を借りて読み、お互いに感想を話し合ったりするようになった。
仕事の会話から入ったから、男性と意識しすぎることなく、自然と話せるようになっていったのだ。
そして、最終的には結婚へ。
読書家さんは、今の夫なのだ。
⊥の世界で出会った時の話題になったから、夫との出会いを思い出していた。
あの時、近くで棚の整理をしていなければ話すこともなかったかもしれない。
そして、沢山話したいからと、館外で会おうと誘われて、沢山話をして、そのうちに交際を申し込まれて、、
なのに、今はまったく話をしない。