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レディー・マスケティアーズ
第13章 エピローグ ――十月の終わり
「今回のあなたの依頼の目的は、死んだ桜井美里のためではなかったんじゃないですか」
「何を言うの?」
 老婦人の顔色が変わった。
「うちのメンバーの中に、桜井美里を高校時代、秋田にいる頃から知っていた者がいました。彼女の話では、美里に祖母はいなかった。父方も母方も、はるか昔に亡くなっていたんです。あなたの親友という人物はいない。塚越涼子さん。あなたは我々に嘘をついていた。違いますか?」
 松永は続けた。
「帳簿と一緒にあった、これもお渡ししておきましょう」
 松永が差し出したのは、裏帳簿と一緒に、アトスたちが木庭敦子の金庫から持ち去った数枚の写真だった。
 セピアに変色した写真に映っているのは、ベッドで戯れる裸の男女だ。
 太った裸体をさらしている女は木庭敦子。そして、その肩を抱いている白髪の紳士は、トーホー開発の創設者であり、塚越涼子の亡夫である塚越謙一郎だった。        「わたしたちに裏帳簿の存在を匂わせた時点で、あなたは木庭敦子が裏で糸を引き、会社乗っ取りを企んでいると勘づいていた。あの女のことを誰より知っていたから。そして、誰よりもあの女を恨んでいたから。だから、わたしたちの目を桜井美里の事件にだけではなく、帳簿にまで向けさせようとしたんです」
 どこかで子どもが手を離したのか、赤い風船が一つ、海のほうに流されていく。自分の行方を知らない風船は、心細げにふわりふわりと空に舞っていた。
「最初にうちの事務所に来られた時、あなたは『会社の収支報告に怪しいころがある』と言った。しかし現実には、経営を左右するような不正な金の動きはなかった。あなたは、そのことをご存知の上で、わたしたちにあんな話をした」
 松永が息を継ぐ。黙って聞いていた塚越涼子が、ようやく口を開いた。                
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