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女忍者(くのいち)は誰かを好きになれるのか。
第1章 一里塚で
「|殺《や》ったか」
 
 男のかすれた声がした。彼は恐らく忍びではない、と小夜は思った。忍びであれば目的を果たしたあと、さっさと声も立てず立ち去るはずだ。男は草むらを探っているのか、あちらこちらでガサガサと草を踏みしめる音がして、その音が近づく。青い匂いが強くなる。
 
 忍者が誰かに狙われることなど日常茶飯の事だ。小夜はその場にうつ伏せて目を閉じ、全身の力を抜いた。小夜が固いつま先が頬を蹴る。その足に転がされるように仰向けにされた。

「ああ……多分な」と、低い男の声のあと頬を軽く二度、三度と呼びかけるように叩かれた。
 
(二人か……)
 
「兄貴、とどめは……」とかすれ声が言った。スッと空気を切るような音がした。鯉口を切る音――刀を鞘から抜いたときの音だ。

(刀を持っている)
 
「いや、それより金目の物はねえのか」と低い声が言ったあと、小夜の着物の袖がゴソゴソと探られたあと、荒々しく胸元が開かれた。
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