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もうLOVEっ!ハニー!
第10章 甘い笑顔と花束

 窓を水滴が叩く音に顔を上げ、梅雨がもうすぐ終わることを思い出す。
 この学園に来てからたった三ヶ月。
 あの悪夢のような卒業式から三ヶ月ですか。
 かんなは、一昨日食堂の汐里から手渡されたメモに視線を戻す。
 誰なんでしょう。
 御巫アリスって。
 下駄箱のカメラは昨日のうちに隆人さんに頼み、取り外してもらいました。
 もう必要ないかなと。
 そして、今朝は……
 職員室で借りたスリッパをパコンと落とす。
 上履きが姿を消していました。
 教室に入った瞬間の、笑みを含んだいくつもの視線が脳裏に焼き刻まれています。
 強い違和感と共に。
 だっておかしいんです。
 御巫アリスの仕業なら、何故クラスの違う私に目をつけ、自分では確認できない悪戯なんてするんでしょうか。
 村山薫と繋がりがある?
 それは確かめようが今のところありません。
 足をぶらぶらさせる。
 買いませんよ。
 戻ってくるまでは。
 教室のゴミ箱、掃除用具入れ、一年用トイレ、裏庭のごみ集積場にはありませんでした。
 そんなあっさり見つかる場所には捨てないということですかね。
 とんとん、と指先で机を叩く。
 雨の音に合わせるように。
 まだまだ水面下の軽いもの。
 昼休みになんとなく確認したら傘の中に墨汁が入れられていたのも軽いもの。
 中身を他の傘に溢さないよう、校庭の水道まで運んで洗いました。
 まあ、梅雨にはお馴染みというか。
 糊とかよりはまだマシですね。
 雨に濡れながら玄関に入ってきたときは、ハンカチで髪を拭うのすら馬鹿馬鹿しく思いました。
 なんて面倒なんだろう。
 この行為は。
 感触の悪い靴下のままスリッパに履き替え、放課後まで靴がちゃんとあるか心配になって使われていない靴箱に入れた。
 お気に入りのスニーカーなんです。

 放課後、チャイムと同時に学園を飛び出し、無事だったスニーカーで寮まで走ります。
 ここへ逃げてきたときのように。
 息を荒くして階段を駆け上る。
 自室の扉を閉めてから、脱力して崩れました。
 何度も深呼吸を繰り返す。
 無性に走りたくなったんです。
 汗と雨が混ざって濡れた顔を拭き、服を脱いでワンピースに着替えてベッドにダイブする。
 気持ちいい。
 裸足が。
 良い香りのシーツが。
 静けさが。
 しばらく目を瞑ってそれらの快感に浸る。
 
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