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もうLOVEっ!ハニー!
第10章 甘い笑顔と花束
図書室に本を返してから売店に向かう。
一限から降っている雨は止む気配すらありませんね。
雨は好きですが。
紫陽花の並んだ中庭を横切る。
青と赤。
深緑の葉がぎっしりと。
「美味しそうな色合い……」
「そうか?」
「っひゃ」
独り言を聞かれてたとは思いもせず、背後に立っていた人物に驚きすぎてぶつかってしまった。
見上げると、尚哉さんでした。
「お……久しぶりですね」
「人の胸元にもたれながら言うことじゃなくね」
「すみっ、ません」
手を貸してもらい、なんとか立つ。
尚哉は銀の指輪を嵌めた人差し指で、紫陽花の葉をつついた。
水滴が雨に混ざって落ちる。
「これに食欲はそそらねえだろ」
「あっ、えと。花の方です」
「そっちもだよ」
「そうですか?」
「マリケンなら賛成するかもな」
職員室側の出口を一瞥すると、そこから大きな体が揺れながら現れた。
すぐにヘッドフォンを耳に装着しますが、私たちに気づいて外しました。
「珍しいツーショット」
「こんにちは、マリケン先輩」
「マリケン、紫陽花って旨そうか?」
「いきなり何の質問? 旨そうだよ。飴みたい。雨の季節だけに」
首を傾げながらも即答を出したマリケンに、尚哉が額を押さえて呆れた。
「そうですよね」
「乗るのかよ、かんな」
そこで借りてきた本に気づいた尚哉が指差す。
「安部公房だ」
「知ってるんですか」
「ん。教科書出てきてから結構好き」
「良い世界観ですよね! 不思議な……マリケン先輩も好きなんですか?」
「いやごめん、ニヤニヤしちゃって」
その顔を振り返ってから尚哉の頬が赤くなる。
「てんめぇ……」
「共通の趣味はいいことじゃん」
何の話でしょうか。
遠雷が木霊して、中庭に不吉な風が吹く。
濡れちゃいますね。
「先輩方、入りましょう」
「お、おう」
「あ、用あるからじゃーねー」
「マリケン!?」
どてどてと階段を猛スピードで上がっていった残像に手を伸ばす。
そんな尚哉にかけて良い言葉も見つからずに、二人は立ち尽くした。
「あのやろ、確信犯……」
「尚哉さん?」
「……なに?」
取り出したハンカチで尚哉の制服の袖を擦る。
「染みになっちゃいますよ」
「なっ、良いって」
乱暴に払われて、ハンカチが開いた扉から外に落ちた。
「あっ」
拾い上げたのは見覚えある黒髪の美少女。