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もうLOVEっ!ハニー!
第10章 甘い笑顔と花束
あの時、薫さんが取り除いたものはよく見えませんでした。
しかし、気づいてしまったんです。
目の前の御巫アリスは犯人じゃない。
なにか違う目的であの日下駄箱に現れたのだと。
それをまさかこんなタイミングで尋ねるとは思っていませんでしたが。
「どういうことだ?」
事情の知らない尚哉が二人を見比べる。
アリスは耳に髪をかけて、静かに話し始めた。
「そんな尋ね方されるとは思ってなかった。ちゃんと松園さんに届いたとばかり……なにか訳があって邪魔されたのかな。とすれば、もう一度あそこに綴った想いを伝えなければならないのね。そう。そういうこと。私はね、松園……かんなちゃん。貴女の唇に恋してしまったの」
「んなっ」
「いぇはい?」
頬を桃色に染めてうっとりと語るアリスに、戸惑いがそのまま声になってしまった。
「ちゃんと、段階を踏みなさいってお姉ちゃんから言われたからそうしたの。丁寧にね。ラブレターなんて。でも、貴女から何の返事もなくて、困惑させてしまったなら謝らなきゃって」
「ちゃ、ちょっと、待ってください?」
「なあに?」
淡々と告白される内容に気が気じゃありません。
両手を伸ばして彼女を制止する。
尚哉は恐ろしいものでも見るようにアリスを凝視していた。
「えと……アリスさんは、私のこと」
「好き」
「その」
「キスしたいの」
隣から呻き声が聞こえた。
がしっと肩を掴まれる。
尚哉が身を此方に屈めて、低い声で囁いた。
「なるべく残酷に断れ。かんな」
「えっ、でも」
「完全に姉の血を引いてる。毎日キスをねだられる関係に妥協出来るか?」
「はい!?」
キ、キスフレってことですかそれ。
テレビでしか見たことのない単語。
実際に今は小学生でもブームだとかおぞましいニュースを見たことがありますが、自分には無関係だと流していました。
それが……
「姉は関係ないですよ、先輩」
「地獄耳かよ……」
「私は、純粋にかんなちゃんに惹かれたんです。一回だけ、まずは味見させて」
「ボクが断るっ!」
聞き慣れすぎた声が降ってきたかと思うと、その言葉通り階段を七段飛ばしで飛び降りた美弥がアリスの前に割って入った。
「みみみみみやさんっ!? どこから」
「二階にかんなの声がした。ボクが来る理由なんてそれで十分でしょ」
なんていう、安心。
美しい背中に手を合わせる。